西洋占星術とは、ヘレニズム時代の昔より発展してきた、西洋における占星術の体系のことである。各天体と対応するように、生年月日や時刻などをホロスコープ上に描き出し、その解釈によって占う方法が一般的だ。
今日わが国でよく見られる十二星座占いは、この西洋占星術をより簡潔かつ通俗的にアレンジしたものだといえる。
星の動きを読むことで地上のさまざまな出来事の兆候を読み取るという行為は、洋の東西を問わず各地で古代から行われてきた儀式である。また、この儀式を厳粛に遂行できることこそが、権力者の証でもあった。
たとえばエジプトでは、紀元前4200年ごろに星図が占星術に使われたという記録が残されており、ナイル川の氾濫をこれによって予言していたとされる。市民の生活に密接する危機の予兆を得ることができるものは、市民たちから当然畏敬の念で見られる。ここに占星術の源流があると考えられる。
ただし、西洋占星術はこのエジプト占星術と直接の因果関係にはないというのが、最近の研究では主流である。西洋占星術はまったく別の流れで独自に発生したものであるとされる。
西洋における占星術の歴史は、紀元前1000年ごろ、古代バビロニアで天の星々を神々と結びつけて捉えたことからはじまる。星の動きやサインから暗示を得るという、占星術特有の考えもこのときすでにできていた。
のちに主流となる、ホロスコープによる占星術が体系化されるのは、ギリシャ人の手によるものである。なかでも、ギリシャがローマ帝国の支配下にあったころ、天文学者であり数学者でもあり地理学者でもあったクラウディオス・プトレマイオスが寄与した貢献の大きさは、並々ならぬものがあった。
『アルマゲスト』や『テトラビブロス』といったプトレマイオスの著書は、のちの天文学の基盤になったと同時に、西洋占星術の基盤ともなった。ここでは天動説がとられているが、数学的な計算法を導入することによって天体観測の方法や軌道の計算、距離の計測などがまとめられている。また、一般に「トレミーの四十八星座」と呼ばれる星座群は、現在の八十八ある星座の基礎となったものでもある。占星術に用いられる黄道十二星座の名称を定めたのもプトレマイオスであり、西洋占星術を語るうえでは無視できない存在だといえる。
他方、ローマ帝国においては、ギリシャほど目立った発展は見られない。初期の皇帝たちのなかには占星術を政治に用いた者もいたが、キリスト教が広まるうちに自然と廃れていってしまう。
こうして時代遅れとなってしまった占星術を甦らせたのは、イスラム世界の占星術師たちである。ヘレニズム時代の占星術システムは、多くの学術書とともにイスラム世界へ輸出され、そこで独自の発展を遂げることになる。アブー=マーシャルやアル=キンディー、アル=フワーリズミーといった占星術師たちが残した影響は大きい。ここでもやはり、数学や地理学と結びつけられて占星術は発展した。
ヨーロッパで占星術が再び日の目を見るのは、中世以降のことだった。いわゆる「12世紀ルネサンス」によって、アラブ世界の占星術書もラテン語に翻訳されたことで、イスラム風にアレンジされた西洋占星術が逆輸入されてきたのである。占星術は再評価されるようになり、以後しばらく重要な研究対象として天文学者たちに扱われることになる。
あくまでも占星術が「科学」として捉えられていたことは特筆すべきであろう。
天文学の発展は占星術の発展と不可分である。天体を観察し、その動向についての知識を身につけることは、占星術があってこそ必要なことだったからだ。古代においては天文学のみならず、医学や錬金術といった分野にまで占星術が応用されていたほどであり、星の動きは地上のすべてに関わっているのだとされていた。
この両者が明確に分離するのは、アイザック・ニュートンが天文学に力学を導入してからだといわれる。従来、地上の物体の動きと天体の動きはあまりにも原理が異なっているかに見えていたため、神秘主義的に利用されることが多かった。しかし、ニュートンが万有引力の法則を示したことにより、地球上の物質落下も天体の運動も同じ原理で説明がつくようになり、占星術を自然科学として扱うことへの疑義が生まれたのである。以降、占星術は科学の座を剥奪され、疑似科学と見なされるようになる。
それでもなお、サブカルチャー、オカルトの一分野としの人気は根強く、欧米においては現在も、新聞や雑誌等に占星術のコーナーがよく見られる。これは、日本での十二星座占いの人気と変わらないといえよう。
近代の西洋占星術における十二宮は、日本の十二星座占いのように誕生月を分けるだけのものではない。あらゆる基本的な個性を十二に分割したものであり、それぞれの区分に当てはまるということは対応する個性があるということである。
一般に、それぞれの宮には以下のような特性があるとされる。
【十二宮のサイン】
・白羊宮(Aries)……火の宮。自己意志。個人主義。知的。先駆者。
・金牛宮(Taurus)……地の宮。所有、貯蓄。芸術的。周到。頑固。
・双児宮(Gemini)……風の宮。知識。論理的。二重性。好奇心。
・巨蟹宮(Cancer)……水の宮。家庭。愛情。保護的。
・獅子宮(Leo)……火の宮。遊び。誇り高い。独創的。力強さ。
・処女宮(Virgo)……地の宮。整理整頓。批評的。謙虚。柔軟。
・天秤宮(Libra)……風の宮。バランス。公明正大。魅力的。交渉上手。
・天蠍宮(Scorpio)……水の宮。応用力。秘密。分析的。鋭さ。
・人馬宮(Sagittarius)……火の宮。万能。率直。外向的。楽観的。
・磨羯宮(Capricorn)……地の宮。現実的。用心深い。几帳面。憂鬱。
・宝瓶宮(Aquarius)……風の宮。友情。客観的。人道主義。賢明。
・双魚宮(Pisces)……水の宮。幻惑。想像力。情け深い。理想主義。
日本において有名な十二星座占いは、これらを単に、生まれたときに太陽があった位置に対応させただけの、サン・サイン占星術と呼ばれる簡易的なものである。こちらも歴史は古いとされるが、パターンが少なく、曖昧さが多いため、かつて科学同然に扱われていた占星術と同列に扱うことは適切ではない。
また、主流となっている西洋占星術においては、一般に、十二宮のサインと惑星のサインを組み合わせて対象者を分類することが多い。なお、ここでいう「惑星」は天文学的な意味での「惑星」とは必ずしも定義が一致しないことに注意されたい。
古くから用いられている七つの惑星とその意味は、以下のとおりである。
【古典的な惑星のサイン】
・太陽……力。成功。父性。創造性。
・月……雰囲気。無意識。習性。母性。家族。
・水星……共同体。隣人。文筆業。
・金星……芸術。社会生活。調和。愛。
・火星……情熱。攻撃性。スポーツ。衝動。
・木星……哲学。宗教。道徳。大志。
・土星……信頼。責任感。権威。自制心。
加えて、近代になって新しい惑星や小惑星が発見されたことで、それらもまたサインとして占星術に対応させる占星術師も多い。
【近代新しく加わった惑星のサイン】
・天王星……理想主義。革新。破壊。創意。
・海王星……神秘主義。共感。慈善。芸術。
・冥王星……暴露。終末。死。ビジネス。
・ケレス……母性。献身。健康。農業。
・キロン……ヒーリング。
ただし、古典的な占星術では、当時存在しえなかったこれらの概念は用いない場合が大半である。
こうしたサインをホロスコープ上に配置していくことで、個人個人のチャートができあがり、占いが可能となるのである。
上述のように、西洋占星術は長い歴史のある占いの体系である。それだけ多くの人々に信じられ、用いられてきたということであり、信頼に足るものだといえる。
しかしながら、占星術もまた、あらゆる占いと同様に最終的には解釈の問題である。まったく同じホロスコープから、占星術師によって異なる解釈を導き出すことは往々にしてありうる。そのいずれかが正しくていずれかが間違っているということではない。
やはり西洋占星術にしても、盲目的に信じ込むのではなく、人生をよりよくするためのひとつのヒントなのだという程度の心構えで向き合うことがよいだろう。