テレビ業界において、「心霊番組」は夏の定番とも言うべきものであった。
しかしここ数年、心霊番組はあきらかに減少傾向にある。
まず大前提として、1995年3月20日のオウム真理教の地下鉄サリン事件以降、テレビ業界において、「オカルト」「心霊」関係の番組は自粛傾向にある。
また、その後「霊感商法事件」などの取り締まり強化の一環として、「心霊番組」も自粛傾向にある。
これは、「オカルト」「心霊」番組を放送することで、視聴者に興味や知識を与えてしまい、カルト教団やインチキ霊感商法集団の信者になる可能性が出てくるからである。
それとは別に、近年「心霊番組」が減少傾向にある主な5つの理由を挙げておく。
まず最初に、近年、構造不況が長期化しただでさえスポンサー探しに苦労しているテレビ業界において、「心霊番組」はその中でも、最もスポンサー探しに苦慮するから、という極めて業界的な事情がある。
第二に、「便乗騒ぎへの懸念」がある。
これは番組で「心霊スポット」などを紹介すると、若者などがそうした場所を興味本位で訪れ、中には宴会や花火遊びなどに興じるグループなども現われる。
こうした騒ぎの場所となると、今度は近所の住民や関係者などから多数のクレームが寄せられることになり、制作したテレビ局としては余計な対応に追われるのである。
第三に「想定外の余波、影響」である。
これは心霊に関する何かを放送したことにより、例えば、視聴者の心身に異変が起こる、あるいは番組出演者やスタッフ等に何かが起こるといった、想定外の影響が起こってしまうことがしばしばある。
こうしたことに対しても責任上、対応せざるを得なくなるわけである。
第四に「心霊事象に対するクレーム」である。
心霊番組などに対しては、教育関係者からのクレームが常につきものである。
また、心霊研究者や霊能者などからは、取材対象や取材手法等に関して、番組放送後にやはり多数のクレームや批判が来るのである。
第五に「霊感商法の間接的な助成」がある。
心霊番組はゲストコメンテイターなどに霊能者などが登場する機会が多くなる。
その中には、後々、霊感商法等との関係が指摘される人物なども出てくる。
こうした場合、番組サイドにもほう助の疑いが出てきたり、無関係であってもそうしたクレームが集中することを避けることはできない。
筆者にもテレビ局のプロデューサーやディレクターに知り合いがいる。
1990年代のオウム事件以前は、番組のコンテンツなどに関して話し合ったこともある。
テレビ局のスタッフにも、スピリチュアルな事象に本当に関心を持ち、「精神性を重視することを啓蒙するような正当なスピリチュアルな番組を作りたい」とする人たちはいる。しかし、テレビ局スタッフとして番組を作るには、どうしても局とスポンサーの意向を無視することはできないのである。
つまり、視聴率とスポンサーの取れる「エンターテイメント性の重視」が大前提なのである。
このことがいくつかの「メディアの罪」を生み出している。
エンターテイメント性の演出は、さまざまに行われる。
心霊番組においては「いかに怖がらせるか」「いかに驚かせるか」「いかに楽しませるか」この三つを番組内にて組み合わせなければいけないのである。
●「いかに怖がらせるか」
まず怖がらせるためには、それなりの衝撃性を与える必要がある。
そのため、テレビ放送には不向きな心霊映像などでも平気で放送することになる。
これによってもしかすれば見た人の心身に異常をきたす可能性のある「本当の怨霊映像」も、一方で「フェイク(インチキ)映像」もろくに検証されずに、怖がらせるために放送されることになる。
また現場取材などにおいても、心霊関係者から見れば「結界が張られている」と思える場所にも平気で撮影班が入り込んだりすることになる。
これらの行為は、鎮めてある怨霊を覚醒させる行為に等しい、とする霊能者もいる。
●「いかに驚かせるか」
この演出においては霊能者が重宝される。
つまり、映像に写らない心霊を、霊能者の能力によって描写させることで、あたかもそこで心霊現象が起きているかのように演出するわけである。
心霊スポットへ取材に行っても、多くの場合、カメラの前では何も起こらないのがほぼ常である。
しかしこれでは番組のエンターテイメント性は盛り上がらない。
そこで霊能者を登場させ、「あそこに誰かがいますね・・・」などとコメントさせるわけである。
こうした場合の霊能者選定は、霊能力自体をしっかりと検証した上で起用されると言うよりも、いかにテレビ受けするやり取りができる人かといったタレント性が重視される。
これによって視聴者は、見えない心霊現象に驚くのではなく「霊能者ってすごい」と、霊能力者の能力に驚くことである種のカタルシスを得られるのである。
同時に、霊能者への親近感を助長し、霊感商法などを行う悪徳霊能者の犠牲者作りに貢献してしまうことになる。
●「いかに楽しませるか」
この演出においては、多くの場合、タレントなどを心霊スポットに送り込み、怖がらせたり騒がせたりすることをよく行っている。
こうした演出は、取材対象の場所・物等によっては、本当にある種の封印をといてしまうケースもある。
それだけに危険なものであると同時に、出演者の心身に悪影響を当てる可能性は大である。
その取材時に、たまたまプライベート関係で大きな悩みなどを抱えているタレントであれば、心霊スポットに行った後、心身状態のさらに悪化は可能性のあることであろう。
また、こうしたタレントを現場で使う「心霊スポット騒ぎ」は、視聴者が男女のグループなどで現場を訪れ、同じように騒ぐと言う心霊ならぬ「迷惑現象」を数多く生んでいる。