精神医学は医学の一分野であり、さまざまな「精神疾患」に関して診断・治療・研究を行う。
精神医学を専門とする医師が精神科医である。
また、診断・治療等はできないが、カウンセリングなどを行う民間資格の臨床心理士も精神医学の従事担当者である。
精神医学において、現在行われている治療法としては、主に以下のようなものがある。
1)脳・神経系への直接治療
薬物療法、電気けいれん療法、経頭蓋磁気刺激、光療法、断眠療法、脳深部刺激療法など。
2)カウンセリング、コミュニケーション治療
来談者中心療法、精神分析療法、家族療法、集団精神療法、認知療法、心理教育など。
3)非言語による治療
作業療法、自律訓練法、動作法など。
4)社会的な環境を使った治療
家庭環境や職場環境の調整・改善、ジョブ・コーチ、訪問看護、デイケア、自助グループ(断酒会)など。
精神疾患者が現代のように普通の患者としての扱いを受けるようになったのは、1800年代初頭からである。
中世ヨーロッパでは精神病患者は悪魔憑きと呼ばれ迫害されたし、日本では平安時代には、物狂い、狐憑きなどと呼ばれ、人間扱いはされなかったのである。
1808 年にドイツの医学者ライル(J.C.Reil)によって精神医学という言葉が定義されて以降、ようやく精神疾患に対する医学的なアプローチがスタートすることになる。
20 世紀に入るとともに、オイゲン・ブロイラー、精神分析を創始したフロイト、現象学の導入により方法論を整備したカール・ヤスパースら、により精神医学に新たな潮流がもたらされた。
中でもフロイトによる「精神分析」(疾患を無意識の力動や生育早期の外傷体験など心因によって理解・分類し、それを言語的に解釈することによって治療する)が精神医学にも浸透し、精神分析学を基礎とする精神医学である「力動的精神医学」が発展する。
ただし、現代においてこの「力動的精神医学」は、科学的でないとして無視される傾向もある。
さらに1950年代に入って、向精神薬の開発が始まり、現在に至るまで多種多様の薬が開発されている。
この向精神薬の登場によって、例えば幻覚妄想で知られる「統合失調症」であっても、幻覚妄想をかなりの確率で抑制できるようになり、精神病院で一生過ごすしかなかった患者が退院できるようになったのである。
現代では多くの精神疾患が治療可能となっている。
しかし、多くの場合、薬物治療などの対症療法を中心としたものである。
世界中の医療機関・医療関係者の間で、その重要さが問われているのが「スピリチュアル・ケア」である。
スピリチュアル・ケアとは、「生きがいを持ちやすい人生観」への転換を推奨し、人生のあらゆる事象に価値を見出すよう導くことにより、人間のスピリチュアルな要素(心あるいは魂)の健全性を守ることである。
その発端は、死を目前にした病人が「死んだらどうなるのか?」と医師に問うても、まともな返答ができないことが多かった。
この場合、そうした不安な思いのまま患者が死を迎えていいのか、という疑問が医療関係者の間で論議されたのである。
その結果、現在は米国やドイツにはスピリチュアル・ケアを担当する専門職が置かれるようになり、日本でも「病棟チャプレン」(病院にいる牧師)などがいる病院が増え始めている。
スピリチュアル・ケアでは、現世だけでなく来世のことも話題となるため、いわば宗教的な知識が必要とされる。
そのため、精神科医や心理士の素養の範疇を越えたカウンセリングテクニックが必要となる。
精神医学は、精神という言葉が付随してはいるものの、病理現象のとして対象は脳や神経が主軸になっており、本来の精神に関しては考察が希薄である。
今後、スピリチュアル・ケアと医療の融合が進むことで、精神科医の間にも言葉どおりの精神・魂などの領域が精神医学を考える上での考察対象となることが期待されている。