真霊論-精神病

精神病

精神病とは、古くから認知されていた内科・外科的な病気以外の、心理的な病気のことである。現代病の一種であると捉えられる。
ただしこれは、一般的に用いられる言葉でありながら、正確な医学用語ではない。そのため定義も一定しておらず、使われるケースやシーンによってどのような意味をもつかは大きく変わってくる。
「精神病」という言葉に出会った際には、その都度発言者の意図を慎重に汲む必要がある。

「精神病」という言葉の難しさ~定義と概要

精神的な疾患は、その症状こそ大昔から存在していたはずであるが、医学的に真摯に研究され、「病気」であると世間的に認知されるようになってからはまだ日が浅い。現代病だといわれるのはこのためである。
かつて精神病患者は「狂人」扱いされ、隔離されるばかりだった。彼らはまともに治療を施されないだけにとどまらず、深刻な人権侵害の被害に遭ってすらいた。
第二次世界大戦以降、精神医学の発展によって、この状況は劇的に変わったといえるが、現在もなお専門家以外からは誤解の多い疾患であるのが実情である。
医学的な見地からみた「精神病」は、二人のドイツ人医学者による定義が有名である。
近代精神医学の基礎を築いたエミール・クレペリンは、統合失調症・双極性障害(躁うつ病)・てんかんなどに代表される「内因性の精神疾患」のことを精神病だと定義した。上記三つを「三大精神病」とも呼んでいる。
一方、クルト・シュナイダーは、統合失調症をほかの精神疾患とは区別してとらえる考えを示した。シュナイダーはまた、精神疾患を表面的な症状からではなく、その原因となる形態から診断する方法を提唱してもいる。
一般名詞としての「精神病」は、「精神になんらかの異常がある」といった程度の広い意味で使われる。かつては「変人」や「狂人」の意味で用いられることも多かった。そのため、脳機能の障害であるケースや、薬物中毒による異常精神状態も精神病として統合失調症などと同様にあつかわれてきた。また、精神科への通院歴があるとそれだけで差別されるケースも目立った。
そのため、精神医学が発展してからも、「精神科」という言葉を嫌ってなかなか必要な治療にかかろうとしない者も多かった。今もなお、年輩の人々を中心に精神疾患への偏見は強い。こうした状況を鑑みて、現在は「精神科」という言葉はあまり好んで使われない。
最新の定義としては、世界保健機関による『疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版』(ICD-10)やアメリカ精神医学会による『精神障害の診断と統計の手引き』(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)などが医療現場では用いられている。
現在、医学的な文脈での定義はほとんどこれによるものであるが、古い文献などが参照されることも今なおありうるため、やはり慎重に用語を見極める必要があるだろう。
また、ここでの「精神病」もやはり、一般的な感覚での「精神疾患」とは定義が微妙に異なっていることに注意されたい。これによれば、てんかんや不安障害などは精神病には含まれていない。一方で、薬物依存であったりアルツハイマーであるような、一般には精神病とは思われないものが含まれている。
広義の精神病をあつかう医療分野は、精神科、心療内科、脳神経科など広範にわたる。
精神病という言葉が、非常に大雑把な括りの病気であることを知っておくべきであろう。

広義の精神病の分類

精神病は、その原因から分類することができる。
▼心因性精神病
ストレスなど、心理的な要因によって起こった精神病のこと。うつ病や不安神経症などがこれに類する。
人格が解体されるほど重度の反応精神病から、短期間で症状のおさまるものまである。
▼内因性精神病
統合失調症に代表される、脳を原因とすると思われている精神病のことである。ただし、これらは明確に原因が解明されているわけではない。まだ現在も脳にまつわる研究は未解明の部分が多く、具体的なメカニズムは専門家にも判然としていない。
▼外因性精神病
原因が心因でないことが認められている精神病のことである。これはアルツハイマー病やパーキンソン病といった中枢神経の障害によるものや、薬物依存状態での精神状態のことを指す。

症状からみた精神病の分類

ここでは、上述のICD-10にもとづく分類を紹介しておきたい。
▼症状性を含む器質性精神障害 F0(F00-F09)
脳の大きな病変に起因する精神疾患のことである。医学的な現場以外では、精神疾患と捉えられることはあまりなく、一般的な病気だとされることも多い。痴呆性疾患やコルサコフ症候群などが代表的である。
▼精神作用物質使用による精神および行動の障害 F1(F10-F19)
薬物やそれに準ずる物質に起因する依存症や中毒症状のことである。精神作用物質としては、大麻、コカイン、覚醒剤といった摂取が違法なものから、カフェイン、タバコ、砂糖といった日常的に摂取されるものまで挙げられる。これも日常ではあまり精神病だと考えられることはない。
▼統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害 F2(F20-F29)
統合失調症や持続性妄想性障害など、近年ますます注目度を高めている精神疾患がここに分類される。まだ原因が未解明であるものが大半である。
日常会話における「精神病」はこれであることが多い。
▼気分(感情)障害 F3(F30-F39)
理性や知能よりも感情に直接的に影響を及ぼす精神疾患がここに含まれる。うつ病、躁病、双極性障害(いわゆる躁うつ病)が代表的なものである。
最も身近な疾患であり、誰もが罹患する可能性が高い。
なお、ストレス性の、強迫観念を受けるようなものはここには入らない。
▼神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害 不安障害 F4(F40-F48)
恐怖症全般やパニック障害、強迫性障害、適応障害、解離性障害といった症状がここに分類される。こちらも一般的にみられる精神疾患であり、やはり誰もが罹患する可能性をもつものである。
▼生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群 F5(F50-59)
生理現象における障害のことを指す。すなわち、摂食障害や睡眠障害がここに分類される。気分障害についで一般的な精神疾患だといえる。また、これらの疾患はほかの疾患の症状としてあらわれるケースも目立つ。
▼成人の人格および行動の障害 F6(F60-69)
人格にまつわる障害であり、妄想性人格障害や境界性人格障害、また性同一性障害などもここに含まれる。厳密にはフェティシズムなどの異常生嗜好もここに含まれる。
▼心理的発達の障害 F8(F80-89)
自閉症やアスペルガー症候群といった症状がここに分類される。

精神病の治療は困難である~治療法と霊感商法

肉体的な病気と異なり、多くの精神病には特効薬がない。
睡眠障害や気分障害といった症状をやわらげる薬はあるが、それを摂取することで病気そのものが改善に向かうことはまれであり、一時凌ぎにしかならないのが実情である。
症状が軽度であれば、ずっと対症療法を続けて生きていくのもよいかもしれない。しかしむしろ体が慣らされて病気は悪化する場合も多く注意が必要だ。
飲んでいれば治る風邪薬のようにはいかないのである。
また、ストレスを緩和するための精神的な治療法も多くある。音楽療法や運動療法などに代表されるものである。しかし、なにせ対象が心理的な部分であるため、誰もに効果があらわれると言い切れる性格のものではない。
ためしてみなければ効くかどうかわからないという、根気のいるものにならざるを得ず、非常に時間も労力も有することになる。
最も建設的な方法は環境を変えるというものである。精神的な疾患の多くは、環境も遠因である。だが、こちらもやはり、いつ再び環境が変わるかはわからない。
また、なかにはオカルトに属するような治療法も多く、注意すべきであろう。心理的な原因に訴えかけるものであれば効果がある場合もないとはいえないが、大半は時間と金を無駄にしてしまうだけである。
精神病は、もとより霊的な事象と関連づけて語られやすいものだ。古くより、自我を失ってしまうほど精神に異常をきたした場合は、悪霊に取り憑かれたといわれることが多かった。また、自分のことをサトラレだとかたくなに主張する場合などは、実際に統合失調症である可能性も高い。
なにより、先に述べたとおり、精神病は劇的な効果が期待できる治療法がないため、藁にも縋る思いであやしい悪徳療法に手を出してしまいやすいという事情がある。この背景にある心理を責めることはむずかしいが、どうにか冷静に理性を保ちつづけることである。
精神病治療のむずかしさには、再発の可能性の高さも挙げられるだろう。
幸運にも適した治療法がみつかって治ったとしても、根本的な原因を取り除くことができないかぎり、いつ再発するかわからないのだ。
そもそも、なにをもってして完治したと判断するのかも困難である。第三者から外側から見て「ふつう」であったとしても、本人は違和感を抱えつづけているということもあるだろう。精神病の治療には、覚悟をきめて、一生付き合っていくという決意がまず必要なのである。

《さ~そ》の心霊知識