呪術師とは、広義では「呪術を駆使する能力を有する者」を意味する。では「呪術」とは何か? 呪術=呪い(ネガティブな影響を与える行為)と考えるのは早計である。「呪術」とは、「超自然的なエネルギー、霊的・神的エネルギーとコンタクトを取ることができ、それを活かすことを目的とした術」である。従って、呪術師にとって重要なのは、どんなエネルギー・ソースとつながれるか、という部分である。なぜならそれによって、可能となることがさまざまに異なってくるからである。例えば、呪いとは、他者あるいは敵対者に対してネガティブな要因を与えたい、という願望を達成させる手段であり、こうした呪術を総称として「ブラック・マジック」と言う。このブラック・マジックを可能にするためには、「邪悪なエネルギー・ソース」とつながる必要がある。一方で、「あらゆる生命にとってメリット、恩恵を願う呪術」は総称として「ホワイト・マジック」と呼ばれる。これを可能にするためには、そうした力を有した「霊的・神的エネルギー・ソース」とつながる必要があるのだ。呪術とは、そうしたエネルギー・ソースとつながるための秘法体系も含めたものである。
世界各地には「シャーマン」と呼ばれる人々が存在するが、シャーマンは呪術師とほぼ同義であると考えていいだろう。古代においては、日本を含め、世界中にシャーマンたちがいた。このシャーマンを中心とした独特のスピリチュアルな文化圏のことを「シャーマニズム」と呼ぶ。シャーマニズムとは、単に呪術を利用するというだけでなく、「霊的・神的なエネルギーの存在を基盤としたライフスタイル」である。つまり、日常生活においても、すべては見えざる霊的・神的なエネルギーの恩恵によって、生命は生かされていると考える。従って、政治・経済・医療など、あらゆることはシャーマンがリーダーとなって執り仕切るのが、古来のシャーマンのステータスであり、シャーマニズムの基軸であった。その後、徐々に分業化が進み、現代にも存在している多くのシャーマンは、「呪術専門」という形になっていることが多いようだ。
呪術の内容は、呪術師によって大きく異なっている。ここではいくつかの代表的な呪術を挙げておく。例えば、霊的なエネルギーとコンタクトが可能な呪術師であれば、霊視・除霊・浄霊・エクソシズム(悪魔祓い)などが可能となってくる。ただし、単に霊的存在をキャッチできる霊視と、人・家などに棲み付いた霊的エネルギーを排除させる除霊・エクソシズムで必要となる力量はまったく違うため、ひとくくりにはできない面もある。ただ、霊的存在を察知することは、本来、呪術師にとって最低必要とされる能力であることは間違いない。シャーマンの場合、その村やコミュニティなどの単位において、人々の健康面のアドバイザーであり、医師でもある。もし心身の状態において困っている人がいれば、その人を霊視して診断し、その対処法としてハーブなどの自然薬を処方するか、生活改善方法をアドバイスするか、霊的な指導あるいは、霊的治療である呪術医療を行う。こうした医術を専門とする呪術師は「呪術医」と呼ばれ、現代においても世界中に現存している。フィリピンやタイ、ブラジルなどでよく知られる心霊治療師は、この「呪術医」である。こうした人々の手助けを行う呪術がある一方で、敵対する勢力や敵対者に対して、失墜を狙った呪術も存在している。邪悪な術が生まれた背景には、前述したように古代社会においては、すべての中心が霊的エネルギーだったことが挙げられる。つまり、人々の生死・死活を霊的エネルギーに依存していた結果として、ブラック・マジックは生まれてきたのである。また、自然界とコンタクトすることも呪術師の重要な役割である。例えば旱魃が激しく農作物が実のらなければ、「雨乞い」を行うのもシャーマンの役割であった。
前述したように、古代社会においてブラック・マジックを行うのは、差し迫った死活問題への対策だった。穏健に人々が生活しているのに、そこに侵略者がやってきて制圧しようとすると、シャーマンはブラック・マジックによって、これを防御しようとしたのである。これは現代で言う、「呪い」とは違うという点が重要である。そのことを少々説明したい。同じブラック・マジックという言い方でも、つながるソースが異なるのである。例えば、自分たちの命の危機を防ぐという場合、コンタクトするエネルギー・ソースは、自分たちを守護している霊的・神的なエネルギーである。この場合、どんな現象が起きるかというと、おそらく侵略する勢力が強力であれば、シャーマンの部族は侵略され、シャーマンたちは別転地に動くことになり、そこで何かしら豊かさの発見がある新たな生活を始める。一方で、侵略した者たちは、一時はその栄華を極めるかもしれないが、やがて衰退し、カルマの法則によってその民族は長きに渡って自分たちのエゴがしでかした侵略行為を償うことを強いられるのである。一方で、現代の「呪い」というのは、「あの人が憎い」「自分が社会的な利益に預かりたい」「自分が幸せになりたい」といったエゴに基づくものがほとんどであろう。こうした場合のブラック・マジックは、霊的に人をおとしめるエネルギー・ソースとのコンタクトが行われる。つまり、そのエネルギー・ソースは「邪悪な悪魔的エネルギー」ということになる。この場合、ある程度の効果は出てくるだろう。しかし、呪術師は「悪魔に魂を売る」ということになり、呪術師といえどもその代償は大きいことになる。悪魔的エネルギーというのは、実在している。悪魔というのは、人間を体験したことの無いエネルギーであり、だから人間の善悪感情などが理解できない。そのため、それがエゴであろうとなんであろうと、呪術師の願望に応えるのである。しかし、こうしたブラック・マジックの場合、ホワイト・マジックによって対抗されれば、多くの場合はホワイト・マジックでの防御が可能である。
日本には古来から、アニミズム文化、古神道などのスピリチュアルな文化があった。そして縄文以前においては、シャーマンが集団のリーダーであった証拠もさまざまにある。その後、飛鳥朝廷、奈良時代と進むごとに呪術の体系は多く取り入れられ、平安時代に陰陽師として結実したといえる。この陰陽師の呪術は、古神道、修験道、密教、道教、秦氏が持ち込んだカバラ、などの呪術がさまざまにブレンドされたものだった。その詳細については、本ホームページの「陰陽師」関連記事にあるので、そちらを参照いただきたい。平安時代は、呪術が政治、医療、文化の中心だったといえる時代である。しかし、こうした日本のシャーマニズムは衰退の一途をたどり、特に明治維新以降、スピリチュアリズムの排斥傾向が強まり、現代においてはいくらかの霊能者たちに、呪術師的な能力が残されているくらいであろう。本来の呪術とは、「霊的・神的なエネルギーとつながり、豊かな人生を歩む術」である。従って、エゴを実現させるためのもの、では決してない。もし日本で「あなたのエゴを実現させます」などと謳っている霊能者、団体等がいたとすれば、そこには本当の呪術はないのである。現代においては、あらゆる形の霊感商法・詐欺商法が横行している。「呪術」を応用したような手口も多く存在している。こうした手口に間違っても引っかからないように注意して欲しい。