自然霊とは、人間や動物などの肉体を持って生まれたことのない、自然の中あるいは森羅万象の自然現象の中に宿っているエネルギー・霊魂のことを指す。
自然霊たちは、神霊や霊界からの命令を受け、大地へ太陽の恵みをもたらしたり、雨を降らせたり、雷や嵐を引き起こしたり、火山を噴火させたりなどする。特に古代人は生活が自然に強く密着していたせいもあり、これらへの畏敬の念と感謝が常日頃から欠かせない、と考えられていた。そうして祈りを受けた自然霊は人々の暮らしや魂の品格を守り、人間はそれに対してまた御礼の気持ちや物を捧げていく、という霊的循環で地上界は成立している。しかし、現在ではこの習慣は失われつつある。
多くの宗教で「神」と呼ばれている存在は、自然霊の中でも最も霊格の高いものである。その姿が形となって現れることはないが、絶対的な存在として地上のあらゆる事象を動かしている。
また、神霊や龍神などに代表される高級霊だけでなく、例えば狐霊・狸霊などのように人霊にとり憑き、いたずらをしてからかう低級霊も存在する。
自然霊と人霊との違いは、情感があるかないかということである。
よく稲荷や白蛇を祀る神社で祈願したなら、それが成就した場合は御礼参りに行かないと祟りが起きる、などと言われるが、これは真実だ。
自然の世界は厳しく、食物連鎖などを考えても分かるように互いの相互作用で成り立つ世界である。そのため自然霊は、ある程度ギブ&テイクな側面を持っている。何かを与えてもらった後には必ず、感謝の意を表さなくてはならない。
古代人は生け贄や収穫祭などを年中行事とすることで、自然霊とうまく付き合ってきた。例えばアイヌのイヲマンテ(熊送り)の儀式などはその代表と言ってもよいだろう。
自然霊は主に4つのグループ分けられる。
【水神】
海や川、湖や沼など、あらゆる水の傍に宿るもの。また雲や雷などに関わる自然霊も水神の一種だ。
代表的なものには龍神が挙げられる(地域によっては白蛇信仰と混ざっている場合もある)。
その他、河童や人魚などの妖精、また一寸法師の逸話なども自然霊から端を発していると考えられている。
【山神系の自然霊】
日本やアジア地域、また密教系の信仰を持つ場所には、山を御神体とする山岳信仰が根強く存在する。
このような所では、山自体に宿っている精気が自然霊とみなされている。日本では京都の三輪山が有名であろう。
また霊格はやや劣るが、天狗や仙人・仙女も、妖怪の一種だと伝承されているが、自然霊の化身といってもよい。
その他、樹木に宿る木霊や石・岩石の精霊、花の妖精なども、山神らと同様に大地を司る自然霊の仲間とされる。
【動物の化身である自然霊】
狐霊や狸霊など、動物の化身として現れるものを指す。
狐や狸は畑を荒らすネズミなどを食べてくれることから、元々は農業の神として崇められている。これは狐を祀った稲荷神社に「稲」の文字が含まれていることからも自明だ。ただ、時代を経て密教の思想の影響を受け、農耕だけでなく商売の神としても祀られるようになった。特に白狐は珍しい種としての貴重さや、白という色から受ける清潔な印象などから、尊い存在とされてきた。
また、白蛇信仰もここに含まれる。
蛇は生涯で何度か脱皮するが、それば生まれ変わり、輪廻を連想させる。そのことから、日本各地の神社で不老不死の象徴として祀られるが多い。龍神は蛇が神化したもの、との考えもある。
こちらも狐と同じく、白いものは特別な存在として崇められた。
【家やものに憑く自然霊】
自然霊が憑依した建物や物品のことを指す。
例えば、座敷わらしは自然霊が家屋に宿ったものだ。旅館や商売をしている家などの人の出入りが激しい家屋に憑き、その家の発展に貢献してくれる善霊である。
また、まれに人間や、その他、御守りや骨とう品などの品物に自然霊が憑依することもある。これは善霊よりも悪霊の方が圧倒的に多い。
白狐や龍神が守護霊のように自分を守ってくれる場合はよいが、霊格の低い、いたずらするような霊が人や物にとり憑くと邪気を放ち、悪因縁を取りつけるような災いを起こす。
人の場合は除霊が必要である。品物の場合は風水である程度の邪気を払うことができるが、気になる場合はしかるべき場所でお焚き上げや供養・除霊などを行うのがよいだろう。