「催眠療法」(英語:ヒプノセラピーHypnotherapy)は、催眠状態の中で療法師(セラピスト)が、クライアントの心的症状や問題解決に必要な暗示をかける、もしくは心理誘導することで、心・信念・思考パターン、行動パターンなどを変えていく療法(セラピー)である。
上記のように「催眠療法」においては、肉体疾患等の病気治し(いわゆる医療行為)を目的とするのではなく、あくまでも心的トラブル・精神疾患の補完的療法である。
したがって、日本でも欧米でも、催眠療法セラピスト資格そのものは医師免許のような国家資格ではなく民間資格である。
また、資格授与も医師免許所有者や精神科医に限られるものではない。
つまり、セラピストの多くは医師ではないため、「催眠療法」自体は医療行為ではない。もちろん、「催眠療法」を医療の一環として行う医師や精神科医も多数存在している。
医学系関係者が多く取得する認定資格の一つには、「日本催眠医学心理学会」が発行する「催眠技能士」がある。
また、1990年代にニューエイジブームと共に、「催眠療法」の英語名「ヒプノセラピー」とそのセラピストである「ヒプノセラピスト」という言葉が日本に上陸し、多くの民間団体ができ、各種のセラピスト資格が発行されている。
●「他者催眠」と「自己催眠」
催眠療法は大きく二つに分けられる。
ひとつは他者(セラピスト)が催眠へ誘導するポピュラーなスタイルで「他者催眠」と呼ばれる。
もうひとつは、自分で行う「自己催眠」である。
「他者催眠」のメリットは、深い催眠状態に入れるという点にあるが、自分の好きな時にできないというデメリットがある。
一方、「自己催眠」は深い催眠状態には入れないが、自分の好きな時に行えるというメリットがある。
何か心的な問題があり、これを催眠療法で克服しようという場合、この「他者催眠」「自己催眠」を併用することで、より恒常的に暗示効果が得られ、改善に向かいやすいとされている。
●「退行催眠」と「前世療法」
催眠療法においては、心の傷、トラウマなどを癒す目的で、時間的に過去(主にその傷を負った時)へと意識を退行させる。
これを退行催眠と呼ぶ。
その退行催眠が、赤ちゃんを通り越し、生まれる以前へとさらに退行した場合は「前世退行」となる。
人によっては心的問題の解決が今世における過去では解決できずに、さらに「前世退行」することではじめて解決できたケースが多数存在している。
こうした「前世退行」を利用した療法が「前世療法」である。
●催眠療法が扱う心的トラブル・症状
催眠療法で改善が見込まれる心的なトラブル、精神疾患などには主に以下のものがある。
(対人関係の改善)
対人恐怖、親子関係、職場での人間関係、手足の震え、どもり
(習慣や癖の除去・改善)
喫煙、食に関する問題、あがり性、過度の緊張、よい習慣の獲得
(心身の悩みの解消)
不眠症、偏頭痛、倦怠感、ダイエット、不安、恐れ、パニック
(性格・自己イメージの改善)
自己イメージの改善、積極性の獲得、自己の開発と発見
(能力の開発)
潜在能力、スポーツ能力、集中力、学習能力、やる気の向上、交渉能力、新しい発想、コミュニケーション能力、イメージトレーニング
(自己コントロール)
ストレスの軽減と対処、痛みのコントロール
(自己探求)
人生の目的、人生の方向性、抱える問題の意味を探る
また、時に記憶障害など、失われた記憶等を取り戻すために「退行催眠」が行われるケースがある。
例えば、欧米には多数のUFOアブダクティ(UFOに誘拐されたと主張する人々)がいるが、その中には消された記憶を取り戻すため、退行催眠を受けた人々が多数いる。
ただし、記憶情報を単に知るという場合は、本来の「療法」とは意味合いが異なる。
米国の精神科医、ブライアン・L・ワイス(1994- )博士は、その著書『前世療法』によって世界中に「前世療法」の存在を知らしめた人物である。
患者が退行催眠中に前世に遭遇し、その結果、現在のトラブルを克服する。
この事実は、ワイス博士が催眠療法中に偶然、発見されたものだった。
ワイス博士は前世療法の有用性について、著書の『前世療法2』でこう語っている。
「過去世の記憶は一種の歴史小説といった性格をもっており、お話はファンタジーや創作、ゆがみ等が一杯あるかもしれないが、その核心はしっかりした正確な記憶であり、それらの記憶はみんな役に立つもの。なぜかというと、真実はその中にあるからであり、これと同じ現象は夢の中でも、今生での過去への退行の場合にも起こることである。」
「虚偽記憶」とは、誤った催眠療法の誘導、もしくはセラピストの意図的な「刷り込み」によってクライアントの意識上に捏造された、「実際には起っていないはずの出来事に関する記憶」のことである。
この問題は米国において実際に裁判で係争されたことで有名になった。
要は、催眠療法中にセラピストが間違ったことをすれば、そのクライアントの記憶には「根も葉もない情報」が刷り込まれてしまう、という危険性を指摘しているのである。
日本の事情を見渡しても、多くの催眠療法を行う会社などが存在している。
その中には、カルト宗教団体などが、信者獲得のためにダミー会社を設立している等と指摘する声もある。
催眠にかかってしまうと、意識に様々な刷り込みが行えるため、一種の「洗脳行為」としても活用できることになるのである。
従って、もし催眠療法を受けるという場合には、しっかりと調べた上で、安心できるセラピストを選ぶことが重要になる。
ヒプノセラピー(催眠療法士)の資格には、国家や地方公共団体などの公的機関から発行されるものは存在しない。全て、民間の任意団体がそれぞれ独自の基準で作った資格が設けられているのみである。
一般的に、患者から信頼されるプロのヒプノセラピストになるためには複数の団体で学び、資格を得る人が多いようだ。また、特定の講座を受講すれば、一度に2団体以上の資格を授受できるシステムを設けているところも多い。
そこで学ばれる内容については、初級者向けの基礎知識からプロ向けの高度な技術習得や知識取得、トレーニングに至るまで多岐に渡り、すそ野をひろげて幅広く履修者を募集している。
以下に、代表的な任意団体と資格取得方法などについて述べる。
■ヒプノセラピーの資格を発行している機関
【米国催眠士協会】
略称は「NGH」である。
1951年に米国で設立された団体で、会員数は12,000名以上にのぼる。世界最大規模の各種ヒプノセラピストを擁するNGO(非営利団体)。
本部はアメリカのニューハンプシャー州、メリマックにある。本部及び全世界に展開されている支部では、ヒプノセラピー関連の教育訓練を行ったり、定期的に資格認定事業を展開したり、ヒプノセラピーに関する情報を幅広く広めるために、冊子や各種書籍の出版を行ったりするなど、とかく誤解されがちなヒプノセラピストを守るべくさまざまな活動をしている。
また、毎年夏には本部において総会が開催される。
そこでは、200種類以上に渡るヒプノセラピー関連のワークショップや講座などが開かれており、毎年、最新の技術や知識が提供される。それによって団体や会員の知識や意欲向上に努めている。
・NGHの資格に関して
NGH独自のヒプノセラピスト資格の名称は「NGH認定インストラクター(略称:CI)」と言う。
これを取得するためには、まず、NGHの会員にならなくてはならない。そして、1年以上継続して、学びを受けることが条件である。
講座については、同団体の講師が指導する100時間程度の「インストラクター養成コース」を受講し、最終試験に合格することが求められる。
なお、日本でもこのコースは展開されており、日本語で受講することが可能である。
【国際催眠連盟】
略称は「IHF」と呼ばれている。
IHFは1997年に発足した団体であり、アメリカやヨーロッパなどで最近とみに発展している。会員は5000人ほどで、IHF会長は女性のシェリル・ストックウェル、理事はリチャード・ニーヴス博士が務めている。
・IHFの資格について
IHFの認定資格を取得するためには、IHFが独自に展開する講座を受講しなくてはならない。初級、中級、上級クラスに渡る150時間の講座を学び、最終試験に合格すれば、認定ヒプノセラピストになることができる。
IHF認定講師には独自の会員証が発行され、ホームページに名前が掲載される。また本部からは定期的に機関紙が届けられ最新情報を得ることができる。また、クライアントの紹介など受けることも可能だ。
その他、毎年ロサンゼルスで開催される「ファン・カンファレンス」という大会の参加費も、通常よりも安価に提供される。
【米国催眠療法協会】
略称は「ABH」と呼ばれる
1982年に、A・M・クラズナー博士が設立した。当時は「カリフォルニア催眠療法協会」として発足したが、活動が全米へ展開してから「米国催眠療法協会」と名称を変更し、現在に至る。全世界1,000を超える催眠教育団体を傘下に従えている。
現在の会長は、タッド・ジェームズ博士で本部はアメリカのネバダ州にある。また、NLPとも関わりが深いことでよく知られている。
・ABHの資格について
ABHの公認トレーナーになるには、初級クラスの45時間の講座を受けた上でさらに、75時間程度のマスタークラスの講座を受講することが条件だ。その後、自宅学習による課題図書のレポート提出などを経て認定講師となる。
講師を継続するには、年次更新のABHの会員継続が必須であるが、これによってアフターサポートも随時行ってくれる。
日本でも講座は開講されており、日本で受講することが可能である。
【国際セラピートレーニング協会】
略称は「ITTO」
設立は2003年と、比較的新しい団体。業界で30年以上のキャリアを誇り、ヒプノセラピストの権威と言われているリチャード・ニーヴス博士によって立ち上げられ発足した。
彼は全米催眠療法協会(ABH)の会長を12年務めたのちに、ITTOを作った。その背景には、彼のそれまでの経験から、より多岐に渡った知識を持ち、実践練習なども積極的に取り入れた、ハイクオリティなヒプノセラピスト養成教育を展開しようという理念が生まれたちめと言われている。
ITTOは現在、アメリカを中心にして日本、カナダ、イギリスなどで活動を行っている。
また彼は、国際催眠連盟(IHF)の理事にも就任している。
・ITTOの資格について
ITTOの認定資格講師となるためには、同団体が主催するベーシック講座、マスター講座、及びトレーニング講習を受講したのち、学習レビューのレポート提出と資格申請を行わなくてはならない。学習時間は36時間程度、これに自宅学習が加味される。
ヒプノセラピストを目指している人は、さまざまな団体で提供される資格内容をよく吟味し、自分に合った団体や講座を選択して欲しい。
ヒプノセラピー(催眠療法)による改善効果には、自分の希望する改善段階へ到達するまでのまでの期間やレベには個人差がある。
ヒプノセラピーでは、まだ科学的にも解明が完全には成されていない「こころ」に対して施術が行われる。
「こころ」、すなわち精神と置き換えてもよいだろうが、心理学や精神医学なども含め、このジャンルの学問はまだ歴史が浅く、決して発達し切っているとは言い難い。
その上、目に見えない部分への施術であるため、例えば胃潰瘍の改善などのように、あらゆる人に共通するような具体的な効能をあげるのは大変難しい。
ただ、施術を受けた人から一般的によく言われる感想としてはは「気持ちが晴れやかになった」、「エネルギーが湧いてきて、元気になった」という抽象的なものが最も多いとされている。
そして、このようにポジティブな感覚が発達することで、自然と行動や周囲への対応、態度などが変化するだろう。その結果、今まで悩んでいたことへの解決の糸口がつかめたとか、周りが変化して何時の間にか悩みの種がなくなった、などということは実際よく聞かれるということである。
また、ヒプノセラピーは厳密にいうと医療行為ではない。そのため施術回数は人によって異なるとされている。例えば、セラピーを1回受けただけでも大きな効果が発揮される人もいれば、数回に渡って施術を受けてやっと、少しずつ変化が生じるという人もいる。
どれくらいのセラピー期間の中で「心の鍵」を解放できるかどうかは、本人にもセラピストにも分かららず、千差万別である。そして、「これを受ければ魔法のように変わる」と言ったような、セラピーの効果に頼りすぎる姿勢で望むと逆に効果は薄くなってしまうようだ。
■ヒプノセラピーによる効果
・心身をリラックスさせられる
ヒプノセラピーを受けているときは、セラピストの施術によって、顕在意識と潜在意識(無意識)を分けているカーテンのようなものが消し去られる、という体験をする
これはすなわち、潜在意識の内側にあるたくさんの情報から、最も自分自身を癒すための情報が抽出されるということにつながるのである。
そして、催眠をさらに続けて行くと、深いリラクゼーションの段階を抜けて半催眠状態へと誘導される。この時は、意識はクリアな状態であり、覚醒時と変わらない感覚を保っている。しかし脳波の状態は、15分でおよそ1時間の睡眠と同じくらいの休息効果が得られるらしい。
催眠状態を経験するだけでも、かなりのリラクゼーションが得られるというわけである。
・ストレスが減り、精神が安定する
催眠セラピーを受けると、誰でも半催眠状態を経験する。これで、心身共に深いリラックス状態を味わうことができる。
ストレスとは一種の緊張状態を表している。そのため、催眠でこれが数十分改善されるだけでもストレスには効果的だ。そしてセラピーを継続していくことで、気がつくと不安やストレスに苛まれることが減っていくというわけである。
・自律神経が活性化する、右脳がはたらきやすくなる
催眠は、心身を大きくリラックスさせてくれる。半催眠状態にはいると、その中では自律神経のバランスがチューニングされる。不眠症や体調不良などに悩まされている人は、それが改善されるという効果があるだろう。
また、人間は覚醒時は左脳(言語、論理野)を中心に使っているが、催眠時には右脳(芸術、直感野)が開かれる。そのため、日頃の生活の中でもクリエイティブが発揮されたり、直感力が強くなったりする。。
・過去のトラウマと向き合い、対処できる、現在の問題や悩みの改善
例えば恋愛や家庭、仕事に関してなど、現在持っている悩みや人生における問題の根が、過去のトラウマにあるという人は意外にたくさんいる。
退行催眠では、悩みを掘り下げて行く過程で、トラウマを引き当てる。そこで、自分でも気が付いていなかった感情と向き合い、それらを解放するというセラピーが行われる。
すると、問題に対する精神的な原因がはっきりするため、今後無駄に悩むことが激減し、結果的に改善へとつながる。
・幼児期や前世へのアプローチを通じて自分をより深く知り、気づきを得る
ヒプノセラピーのひとつ、幼児退行催眠のセッションを受けると、今まで自分でも知り得なかったようなトラウマや、幼少期に経験した思い込みなど発見することができる。
この事と向き合い、感情を解放するというセラピーの中で癒される効果が期待できる。
また退行催眠で見出されたトラウマは、人生の大きな障害(自分の止められない行動により、世界を狭めてしまう事)となっていることが多いので、これらからも解放される。
また、前世退行催眠では、前世において作られてしまったトラウマや悩みの種を見つけることが可能だ。これは、ほぼ幼児退行催眠と同じような効果を持ち、原因となった感情が解放されることを意味する。そのため、トラウマ発見から癒しへというセッションを受けることで、同様の効果を得ることが出来る。
また、前世療法と同じようなセッションに、「未来世療法」というものがある。
あまり聞き慣れない言葉であるが、これは自分のまだ経験していない未来を先取りし、見ることができるというセラピーだ。
その際、今持っている考え方や行動などと向き合い、もしこのまま生きていけば、人生の局面においてどんな選択をし、行動を起こして行くのか、ということを催眠の中で経験できるというものである。
さらには、現世で死んだあと、来世に生まれ変わった後の自分の人生がどうなっているのかなども、催眠セッションのなかで見ることが出来る。
ヒプノセラピーは、「過去、現在、未来」を、催眠を通して見ることで、現時点の自分に対してより冷静な観点をもって眺めることが可能になる。人生や己という人物を俯瞰で見ることができるようになり、瑣末の問題やトラウマの改善などに高い効果を発揮するというわけである。
そして前世、来世をみて行く中で自分がこの世に生まれ落ちた理由、すなわち人生の使命やテーマがつまびらかにされることも多い。ハイヤーセルフと呼ばれる高次の存在と出会う人もいるようだ。
このようにヒプノセラピーの
退行催眠は、時間や空間にとらわれることなく魂のみの己を見つめられる、というのが特徴と言えるだろう。ゆえに、心療内科などで行われるカウンセリング療法とは違った、悟りといってもよいような、深く冷静な気づきを得ることができる。
・人生の目標を達成できる、自己実現ができる
ヒプノセラピーには、「イメージトレーニング法」や「リハーサル法」というセッションがある。これは、自分が目標に向かってストレスなく進むというシュミレーションを行うというものだ。セッションの中では、トラウマなどネガティブな感情を解放し、ポシティブなイメージを潜在意識の中に入れ込んで行く。この感覚は、自分の目標とする事象に対してスピードを持って進み、自己実現することが容易となる。
・悪い行動パターンをなくし、なりたい自分になれる
イメージトレーニング法などの中で、「なぜかいつも同じような状況で挫折してしまう」
などという自分の悪癖が明らかにされる。
これは、ネガティブなパターンが潜在意識の中に刷り込まれているせいである。催眠セッションの中では、このようなバッドプログラミングを解放し、本来の自分がしたい行動を新たに潜在意識へ刷り込んで、なりたい自分へなるという作業がおこなわれる。
■ヒプノセラピーに向いていない人
ヒプノセラピーは、上記にあげたように、さまざまな効果を持っているが、すべての人に向いているわけではない。
以下の人はヒプノセラピーを受けても催眠にかからなかったり、体調が悪化したりする危険性がある。該当する人は避けたほうがよい。
・現在妊娠している、またはその可能性のある人
・今現在、心療内科や精神科のカウンセリングを受けている人、あるいは受けた方が良いと言われている人
・精神安定剤、催眠薬、それに値する薬を日常的に服用している人
・幼児や老人、セラピストが使う言語が分からない人
・身体の痛みや違和感など体調不良を抱えている人
・セラピーの効果を信用していない人、積極的にセラピーを受けたいと思わない人