「アセンション」とは、「次元上昇」や「意識の覚醒」(=霊的進化)を意味するニューエイジ用語(ニューエイジ文化の中で生まれた言葉)で、1980年代の終わり頃から語られるようになった。
ただし、単に概念上のことではなく、まもなく地球や人類が物理的に体験する「イベント」が、アセンションである。
そのイベントの内容をめぐっては諸説あるが、基本格子としては、地球と人類が共に進化成長し、愛と精神主義に満ち溢れた環境の中で、戦争や争いのない平和な文明・理想郷を創造するイベント、と考えられている。
元来、英語のアセンション(ascension)は、一般英語では「上昇」を意味し、キリスト教用語として「イエス・キリストの昇天」を意味する。
では、1990年代に、チャネリングなどに代表されるニューエイジが日本でもブームになって以来、多くのチャネラーや講師たちによって語り続けられてきた「アセンション」の本質とは、何を意味するのか。
この言葉は、占星術や神秘学、数々のチャネリング文献やチャネリング情報、そしてネイティブアメリカンやマヤ族など、ネイティブ種族たちに伝承されている各種の予言が、ブレンドミックスされて生まれてきている。
従って、一口に「アセンション」といっても、それが何を意味するのかは、多くの解釈がある。
そこで本稿においては、まず「アセンション」という仮説が成立した背景を紐解き、構成要素の重要な部分を示すことでその概要を知らせることを第一目的とする。
まず最初に、これから述べる「アセンション」は科学的に認められたものではない。
そこで本稿においては以下、「アセンション仮説」と呼ぶことにする。
「アセンション仮説」はガイア・アセンション、すなわち「地球のアセンション」から始まる。
これは、地球そのものが宇宙の進化プログラムにおいて、現在の3次元的存在から、より進化した5次元以上の次元存在へと「次元上昇を図る現象」だと言われている。
この考え方の背景は、これまで数々寄せられた宇宙存在からのチャネリング情報の共通項がベースになっている。
従ってこの「アセンション仮説」によれば、地球が次元上昇をする以上、地球上に住む人間を含めた生命体は、地球と共に進化(次元上昇)するか否か、その選択を迫られるのである。
そうした中で、地球のアセンションに同調できる人間の条件とは、「霊的進化がそのレベルに達した者」ということになる。
そのため、ニューエイジ系の各団体などでは現在、盛んにアセンションする(=霊的進化)ためのノウハウを伝授する講座やセミナー等が開催されている。
こうしたアセンション仮説は新興宗教団体などにも取り込まれつつある。
新興宗教等におけるアセンションにおいて重要なのは、人間のアセンションのけん引役・リーダーとしての「メシア」の存在である。
自分たちの教団教祖をアセンションのメシアにすることで、より信者獲得にも効果的となるからである。
また、「地球のアセンション」という思想に大きなヒントを与えたのは、1980年代から喧伝されてきた「アクエリアス(水瓶座)の時代」と呼ばれる占星術やカバラ(ユダヤ教神秘思想)の概念にある。
それによれば、2000年以降、地球を含む太陽系はそれまでの「うお座の時代」が終わり、「水瓶座の時代」に入ったとされている。
これにより、「物質優先の文明」(物質=目に見える世界。物質主義)が終焉し、新たに「精神優先の文明」(精神=見えざる霊的世界。精神主義)が始まる、と考えられるようになった。
従って「アセンション仮説」の基本要素のひとつは「人々の意識の覚醒」、「精神的・霊的成長」である。
「アセンション仮説」はどこの誰が提唱した、とは特定しがたい歴史的背景を持つ。
ミレニアム時代の到来が近づくことによって、さまざまな新時代への理想論が巧妙に入り混じって出来上がっている。
特に「次元上昇」の解釈をめぐっては「過激派」と「穏健派」に分かれている。
●「穏健派」の次元上昇の解釈
人々の意識の覚醒、霊的成長が進んだ段階で、「アセンション=地球と生命の次元上昇」がやって来ると考える。
従って、戦争やテロ、エゴを優先した各種の争い等が世界にはびこっているうちは、まだまだ地球も人類もアセンションはできない、とする。
「次元上昇」とは、人間や他の生命、そして地球という自然のすべてがうまく調和して生きていける時代であり、あらゆる生命にとっての楽園の創造を意味する。
ただし、「精神文明主体の時代」へと移るため、この時代の変遷に反対する者は、何かしらの犠牲を払うことになる、と考える。
●「過激派」の次元上昇の解釈
人々の意識覚醒、霊的成長がどうあろうと、しかるべきタイミングで地球はアセンションする、という前提である。
その時期は「2012年12月22日の冬至」というのが定説になっている。
もしその時期までに意識覚醒や霊的成長がなされていない人は、地球のアセンションにはついてこれないことになる。
「次元上昇」とは、3次元から5次元への移行であり、人間で例えるなら、肉体を捨てより自由度の高い「アストラル体」や「魂」などのエネルギー体のみで構成された生命への進化を意味する。
地球のアセンションに伴っては、数多くの天変地異などがこの先やって来ることになる。これは人類や生命にとっては淘汰であるが、進化に伴う必要なプロセスである。
●次元上昇のもうひとつの解釈
これまで同様の3次元的な地球文明がある一方で、アセンションした人々は、物質や自分の身体なども自由にコントロールできる仙人のようになっており、そうした人々のみが集まれる「シャンバラ」(進化した人々の理想郷)のような、異次元の文明国家を同じ地球上に築いている、とする説もある。
こうした思想の背景には、「並行宇宙」、「パラレルワールド」、「神仙思想」が取り込まれている。
●アセンションできない人々の行方
では、アセンションができない人々(物質文明へこだわる人、支配や闘争が好きな人)はどうなるのか?
これに関しても諸説ある。
「死を迎える」という説、「そのまま低次元の地球に残される」(ただし、そこは地獄のようなもの)と言う説、人によっては、「3次元の木星に移され、そこで原始時代のような生活を1から体験していく」などという説もある。
では、そのアセンションが行われる時期はいつなのか?
その候補時期として、多くの人々が口にしているのが「2012年12月22日(冬至)」である。
アセンション仮説の骨格に大きなヒントを与えたのは、マヤ族に伝承されていた予言の存在である。
それは、マヤ族が使用してきた「マヤ暦」という暦のひとつの「長期周期暦」(ロングカウント)が、終わりに近づきつつある、という予言である。
マヤ族にとってこの長期暦の終わりとは、ひとつの文明の終焉を意味していた。
このマヤ族の予言に関して、多くのニューエイジ関係者も研究を行ったのである。
その結果、「長期周期暦」は「2012年12月22日であろう」という推測を、研究者の一人だったホゼ・アグエイアス氏(故人)が最初に著書『マヤン・ファクター』(1987年)にて出版した。
この時点で、「2012年12月22日⇒マヤ暦の終わりの日⇒現在の文明が終焉し新たな文明が誕生⇒次元上昇」という図式の全世界のニューエイジャー(ニューエイジを学ぶ人々)たちの共通認識が生まれることになる。
ニューエイジャーたちはその後、この分岐点となる日を「アセンション」がなされる日と考えるようになる。
一方で、ニューエイジャーではない人々にとっては、「マヤ暦の終わりの日=世界滅亡の日」という捕らえ方になる。
そこで新たな世界滅亡の日として、「2012年12月22日」が取りざたされ、映画にまでなるようになったのである。
こうした事態に業を煮やしたのは、マヤ族の長老議会であった。
なぜならマヤ族は、長期暦の終わりが「2012年12月22日」であることを認めたわけではなかったからである。
そこでこの数年間、マヤ族の長老たちは世界各地を回りながら、講演会などを開催し正しいマヤ族の見解を発表している。
それによれば、まず、長期暦の終わりの日付に関しては、「特定するのは不可能である」として2012年説を否定した。
「長期暦の終わりは明日でもおかしくないし、10年後かもしれない。そして、その日が来ても世界が滅ぶことなどはない」と、世界の終末論説も否定している。
ただし、マヤ族は新時代の到来に関しては否定していない。
そしてその時の訪れは、「太陽が教えてくれる」としている。
「その変化の時が来ると、太陽は沈んだ後、数日間昇らず、世界は数日間の闇を体験する。そして次に太陽が昇ると、それは新しい太陽であり、新たな時代の幕開けである。これがマヤ俗に伝わっている予言なのです」。
以上の言葉は、マヤの長老ドン・アレハンドロ・シリロ・ペレス・オクスラ氏から、本稿筆者が直接聞いた言葉である。
また最近になり、マヤ研究者のカール・コールマン博士は、「長期周期暦の終わりは2011年10月28日である」と論文を発表している。
しかし博士は「アセンション仮説否定派」であり、当然ながら暦の終わりとアセションの関係性に関しても否定している。
●アセンションと太陽・天体の関係
近年においてNASAをはじめとする天体観測機関などが、太陽の活動期が2012年から13年にかけてピークを迎え、地球に大きな影響を与える可能性があることを発表している。
アセンション仮説には、こうした宇宙物理学的な要素も取り込まれており、太陽から放射されるエネルギーが、地球と人類のアセンションに関係している、とする説もある。
また、宇宙銀河にある「フォトンベルト」と仮称された粒子群域を地球が通過することで、アセンションが起こるという説もある。
最後に、陰謀史観からみた「アセンション」を記しておこう。
陰謀論では、現在の地球文明は、俗に「イルミナティ」等と呼ばれる、ごく一部の人々が牛耳っていると考えられている。
そして「ニューエイジ文化」や「アセンション」という思想も、すべてこうした闇の権力者が生み出したものであると考えられている。
人の死という犠牲も伴う可能性がある「アセンション」が来る、という思想が世界に蔓延すれば、さまざまな人工的な災害、天災、疫病の蔓延等を仕掛け、人口操作をしやすいからである。
目下、闇の権力の目標は、増え続ける世界人口をいかに少なくできるか、にあるとされている。
その意味で「アセンション」は、人工操作による淘汰の、好都合のきっかけというわけである。