真霊論-護符

護符

護符とは、広義には「厄除け、魔よけ、願望成就」などを目的とした「お守り」であり、狭義においては呪術・霊術などにおいて用いられる霊的な道具(呪護符・霊符)である。護符は、各宗教・宗派に由来した様式・形状において作られ、世界中には様々なものがある。本稿においては主に日本で現在も使われているもの、あるいは過去に使われていたものについて取り上げることにする。

お守りとしての護符

●神札(しんさつ)
神社で頒布される護符で、神道や陰陽道の思想と手法によって祈祷されたものである。その形状は大きく2種類に分かれている。ひとつは、神棚等に納めるタイプのもので、通称「御札」と呼ばれている。もうひとつは錦布等で包まれ紐がつくことで携帯可能なものである。自動車やかばんなどに吊られている光景はよく目にするであろう。どちらも神札である。その中身である「内符」には、一般的な神札であれば、紙、木片、金属(神札によって異なる)に、直接もしくは間接的に「神霊」などの文字が書かれていることが多い。またその神札が特定の目的に特化した役目を果たす場合は、その守護神である神の名前や祝詞(のりと)が記されたり、図形等が書かれることもあるという。神札は内符が見えないように封印してある。これは祈祷による「祓いの気」を封印することで、神札の守護効果を高めるためである。従って、神札を開封して内符を興味本位に覗くことなどは厳禁とされている。神札として最も有名なのが伊勢神宮の「神宮大麻(じんぐうおおぬさ・たいま)」である。こうした神札が民間へ広まった起源は、平安時代において、民間で活躍した陰陽師、御師(おんし)・大夫(たゆう)らが、庶民に頒布したことが始まりとされている。

●破魔矢(はまや)破魔弓(はまゆみ)
新年を迎えた時期に神社などで頒布される「破魔矢・破魔弓」は、俗に「縁起物」とされているが、元来は護符的な意味合いを持つものである。ただし、「内符」はなく、弓矢そのものが祈祷されることで「護符」として機能するわけである。そもそも「破魔」とは仏教用語で、「魔力を打破する」を意味している。弓矢に祈祷を施すことで魔よけとしたこの風習は、武家社会が台頭した鎌倉時代から始まったとされている。

●寺院護符
仏教寺院においても、それぞれの宗派の伝統的な手法に基づく護符が作成され頒布されている。密教系の寺院護符としては、木に祈祷を施した「護摩木」などがよく知られている。この「護摩木」は、寺院によっては持ち帰って自宅に納めるか、寺院で護摩焚きにするかを選択できることが多い。護摩焚きの場合は、寺院において僧侶が願意を修法・祈念しながら焚き上げることで護符としての役目は完了することになる。また密教系の護符では、「護摩木」以外にも紙に記した護符(紙札)も多く頒布されている。紙札には大きく2種類あり、ひとつは神道系の護符における「内符」同様に、開封しないタイプである。そしてもうひとつが、書かれた図形のような文字、神格化された僧侶の描写、真言(マントラ)等を、見えるように開示させておくタイプである。後者の場合は、描かれた模様等が開示されることで、その場の厄除けや魔よけに効果を発揮するとされている。

呪符としての呪護符

日本の陰陽道、中国の道教、そしてインドに起源を持つ密教の共通項は、「実践的な呪術宗教」であったということにある。特に日本の陰陽道は、道教や密教、さらにはその他の宗派の呪術思想や技術を取り込んで形成されている。陰陽師、道家、密教僧らは、見えざる霊的存在とあるときは対決するため、またある時はそれらの力を借りるため、護符(霊符)を活用したのである。また、こうした「対霊対策」としてのみならず、「対人間対策」としても護符は活用された。これらが呪術的な呪護符の活用である。

●「呪符」
「護符」が身を守るための符、お守りであるのに対し、「呪符」は呪詛をかけるために用いられる符である。「呪符」の形式・形状は、それぞれ宗派の考え方によってさまざまだが、多くの場合は種々の紋様、呪文、記号、神秘図形等の組み合わせで構成される。符のデザインである「付図」は、漢字や梵字などが多く用いられる密教的要素の強い「日本式」と、道教経典類に多見される図形的要素の強い「中国式」と呼ばれる符群がある。呪符の活用目的は、魔よけ結界の作成、除霊や浄霊の他、守護や敵対者への呪詛、聖霊とのコンタクトや聖霊の使役など、さまざまなものがあった。

●セーマン・ドーマン
平安時代以降の陰陽師が活用したとされるふたつの呪符のこと。
セーマンとは、安倍晴明が用いたとされる、いわゆる「五芒星図形」(晴明桔梗・晴明紋)である。一方のドーマンとは、晴明の良きライバルだった芦屋道満に由来する「九字格子」と呼ばれる図形である。セーマンの五つの頂点は、陰陽道の基本となる五行を表し、それを結ぶことで万物の除災、清浄をもたらす霊的バリヤ(結界)を張ることを目的にしたものである。一方のドーマンは、聖なる「九字」(※)に対応させたこう格子で結界を張る。これら二つを組み合わせた「セーマン・ドーマン」が、伊勢志摩の神島地方の海女さんたちのお守りとして現代でも活躍している。
※「聖なる九字」:道教によって呪力があるとされた9つの漢字。「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前 」(りん・びょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん)のこと。

●厭物(まじもの)としての呪符
呪詛とは、神や聖霊の力を借りることを意味するが、その利用目的は「ネガティブなこと」(いわゆる呪い、ブラックマジック)と、ポジティブなこと(お守り、ホワイトマジック)に分けられる。その意味で呪符は、どちらにも使われたわけであるが、平安時代には呪いのツールとしての活用も多かったようである。その場合、相手に災いがあるように願をかけた呪符を、その対象者の家の中のどこかに隠す等の手法があったようである。こうした呪符を含め、平安時代の陰陽師や貴族はこれらの呪詛品を「厭物」と呼んだ。

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