真霊論-宜保愛子

宜保愛子

宜保愛子は、神奈川県横浜市生まれの霊能者である。
日本における、タレント霊能者の先駆けというべき存在であり、1980年代から1990年代前半にかけてテレビ、雑誌等を中心に一世を風靡した。
その著書は30冊以上にも及ぶ。特筆すべきは、オカルト専門の小規模出版社のみならず、角川書店や講談社といった誰もが知る大手出版社からも数多くの著書が発表されている点である。このことは、宜保のただならぬ知名度の高さを物語っているといえよう。
なかでも、日東書院から出版された「霊視の世界」「死後の世界」は大ベストセラーとなっている。
その一方で、霊能者という非科学的な事象を扱う存在が宿命的にかかえる諸問題を、一般市民に広く知らしめることにもなった。宜保の霊能力の真贋は、彼女がメディアに露出しているあいだ絶えず議論されてきた問題である。当時、霊能者と学者がその能力について真剣に討論し検証するようなテレビ番組も数多く放送されていたことは記憶に留めておきたい。

宜保愛子の能力と経歴

宜保愛子は1932年1月5日にこの世に生を受けた。自身の霊能力を自覚したのは、弱冠6歳のときだったとされる。
宜保の能力の特徴は、相談者の守護霊と対話することができる点であった。宜保は右耳の聴力を失っていたが、その右耳こそが霊界と対話する窓口となっており、宜保の霊能者としての証でもあった。
相談者の家の構造や家具の配置など、当事者以外は知り得ない情報をずばり言い当てるという定番のパフォーマンスは、宜保が幾度も実演することによってポピュラーになったものである。また、その能力により、相談者自身さえも知らない肉親の秘密を聞き出すこともできたという。
宜保が霊能者としての活動を活発に行うようになったのは、1961年にテレビに出演したことがきっかけだった。そこで注目を集めると、以後、講演会に招かれることが多くなる。
その知名度をいっそう高めたのが、1970年代に人気だった日本テレビの昼番組『あなたの知らない世界』への出演だった。この番組は毎年お盆シーズンにのみ放送されたもので、心霊体験を題材とした再現ドラマが人気だった。その霊的現象の分析や解説をする立場として、放送作家の新倉イワオらとともに宜保も出演していたのだった。独特の風貌と穏やかな語り口は一目みて視聴者に印象を残すものであった。
人気が決定的なものとなるのは1990年ごろである。ビートたけしをはじめとする著名人の過去を次々と的中させていったことで一躍時の人となる。1990年代前半の霊感ブームは、宜保愛子が牽引していたといってよい。
物理学者・大槻義彦との「対決」は有名だった。大槻は宜保の霊能力を疑い、論理的な側面から激しく糾弾した。だが皮肉にも、それによってますます宜保の注目度は高まることになった。超能力者のユリ・ゲラーやインドの聖人ことサイババらとの対談、ナポレオンやツタンカーメンの霊との対話など、テレビ番組主導の数々の企画によってますます宜保の名声は強まっていく。
1992年には、1億4000万円という推定所得で高額納税者の仲間入りも果たしているが、一方で宜保本人は、「私は普通の主婦なので」と困惑していたともいわれる。
転機は1995年だった。オウム真理教事件のあと、オカルト的な事象への社会的な批判が強まり、テレビから宜保を必要とするような番組が激減したのだった。この語、宜保は実に五年間もテレビから遠ざかってしまう。
2001年ごろから再びテレビ出演をするようになると、かつてのブームを知らない若い世代からも人気を集め、また脚光を浴びる。しかし年齢と病気には勝てなかった。フジテレビ『力あわせてゴーゴゴー!! 宜保スペシャル強力版』が最後のテレビ出演となった。
2003年5月6日、宜保は胃癌のため都内の病院で死去した。71歳だった。親族のみの密葬で送られたが、これは「限りなくひっそりと静かに旅立ちたい」という本人の遺言によるものであった。
宜保批判の急先鋒であった大槻はこの訃報に際し、霊能力には疑義を持っているとあらためて宣言しつつも、「霊感商法等により露骨な金儲けを行うような事は一切なかったところは評価できる」「彼女の人間性や人柄までは否定するつもりは一切なかった」と故人を悼んでいる。

宜保愛子という霊能者の特異性

宜保愛子が視聴者から好評を得られたのは、霊能者らしからぬ穏和な語り口によるところが大きかったと考えられる。親身にカウンセリングしてくれ、のちの一部の占い師や霊能者のように相談者を脅すことは、一切しなかった。事実、一部の学者たちが検証したように、宜保の能力自体には疑問符をつけざるをえない一面もあった。それでも宜保は多くの人に愛された。
「天敵」であった大槻さえも認めているように、その人間性が宜保最大の魅力であったかもしれない。霊能者は除霊や霊視をするだけの存在だと誤解されがちだが、実際には、霊界を通じて相談者をカウンセリングするという役割のほうが大きい。宜保の霊能力の真贋はともかく、彼女が優秀なカウンセラーであったことは間違いないといえよう。メディア露出の大きかった霊能者でこれほど多くの人に愛された人間はめったにいないはずだ。

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