真霊論-木霊

木霊

木霊(こだま)とは樹木に宿る精霊のことを指す。山中をすばやく、自由自在に駆け回ることができるとされる。最近では、宮崎駿の作品内で取り扱われているせいか一般にも知られるようになった。
また、山彦(やまびこ)は、古来この精霊の声であるとされ、こちらも木霊とも呼ばれる。

木霊が宿る樹木とは

木霊は、全ての木に存在するのではなく、古木・巨木などの特別な木のみに宿り、神気を持つ。これらは地域の古老などが中心となり大切に守られ続けている。
木霊の住む木には神通力が生まれる、また獣や人に姿をかえるという言い伝ある。この木を伐るときは祭りを行い、感謝を表す。
神殿内の磁場の強いような土地に育ったり、たくさんの人に愛でられたり祈りの対象となったりした樹木が、霊的エネルギーを備えていった。

木霊の起源

日本では古くからアミニズム(多神教)をベースとした信仰が広がっていた。
アミニズムとは、「生きとし生けるものには、全て魂(神気)が宿っており、自然からエネルギーを分けていただくことで人は生かされている。その分をお返し(感謝祭・奉納など)することでよき生活を送ることができる」といった思想である。
木霊もその一部とみなされている。
日本で一番古い木霊の記述は「古事記」の、木の神・久久能智神(ククノチノカミ)とされている。
ククノチノカミとは4人いる自然を司る神の一員で、全ての樹木の生みの親とされている。
ちなみにその後「日本書紀」では句句迺馳(ククノチ)と表記が変化し、さらに時を経て、平安時代の書物で「古多万(コダマ)」という呼び名に落ち着いた。
また、同時代に書かれた「源氏物語」では、「鬼か神か狐か木魂(こだま)か」といったフレーズがみられる。これは木霊を妖怪に近いものと見なす考えがあったことを示す。その他には、木霊が怪火(おにび)、獣、人の姿に化けるという文献もある。

各地に伝わる木霊

キダマサマ
木霊の別名。伊豆諸島の青ヶ島では大木に祠を設けて、「キダマサマ」または「コダマサマ」と呼んで祀っている。八丈島でも、木を切り倒すとき、キダマサマに祭を捧げる風習があった。
キーヌシー
沖縄では木霊のことを「キーヌシー」という。よく屋敷の大木を伐るときなどにはキーヌシーに祈願をしてから伐るそうだ。また旧暦12月8日は「ムーチーの日」で、これはキーヌシーが木の中にいない日だと言われている。そのためこの日なら枝を切り落とせると考える土地もあるらしい。
その他、実際には倒れていないのに夜中に木の倒れる音が聞こえることがある。これはキーヌシーが苦しんでいる音とされる。そうした木は2~3日後に枯れてしまうそうだ。
キーヌシーを擬人化したものが「キジムナー」だともいう。これは子供の姿をしていて森を走り回る。
キーヌシーは、あくまでも木の中だけにいる存在で、音でしかない。誰もその姿を見たことはないとされている。
ドワーフ
北欧の神話にはトロルなどの、多くの巨人伝説がある。
そのうちのひとつに「ドワーフ」と呼ばれる巨人がいる。彼らは岩の中や山の下に住んでいて、木霊(この場合はやまびこを指す)は「ドワーフの言葉」と考えられていた。また彼らは山奥で多くの宝石類・財宝を蓄えている、と信じられている。

木霊にまつわる逸話

木霊には、さまざまな伝説がある。その1部を以下に記す。
・樹齢千年と伝えられている大杉に、ある人が大斧を打った。すると切り口から鮮やかな血が流れてきた。その後、切りたおしたものは3日3晩熱に浮かされ亡くなった。
・ある木こりが、樹齢数千年と思われる欅の木を切り倒した。すると夜中に怪しげな僧が現れ、その木を切り倒した男を殺していった。
この木は神の遊び木であったため、神の怒りに触れたせいだと言い伝えられている。
・とある神社に、古い御神木があった。その木の根元には大きなうつろがあり、中には何か怪しげなものが住んでいる気配があったが、だれもその存在を見たことはなかった。
ある日火事でその御神木が焼けた。すると、無気味な声が3日3晩神殿内に鳴り響いた。
4日目に木の焼け焦げた跡を見てみると、白い蛇の骨が散らばっていた。これを「神守りの蛇」とし、ていねいに葬り祀った。

木霊の祟り・霊障

樹とは、大地に大きく根を張る植物である。
特に巨木であれば、よりその根が張るエリアは広大になる。
こうした樹に守り神が宿れば、その土地自体が守護されることになる。
これが樹霊を崇拝する理由であり、神社などでは「ご神木」が設けられている。
つまり、日本の樹霊信仰とは、樹霊つまり木霊そのものを祀るのではなく、樹木に宿る神霊を祀ったものなのである。
では、木霊そのものは存在して、祟りをもたらすということはないのだろうか。
これに関しては霊能者・霊感者などによって、見解はそれぞれであろう。
ここでは、日本にも古くは存在していたアニミズム(自然霊信仰)が今でも残るエリアのシャーマンたちの見解を記しておこう。
アニミズムのシャーマンたちは、樹木を含む、自然の多くの存在たちを守護する「守護霊」的な存在があるのだと言う。
例えば、森の各木々、それぞれ自身には生命力はあっても、人を祟るような霊力は無いとシャーマンたちは考えている。
しかしだからと言って「木々に人間が無礼を働けば、祟られるのも事実だ」とする。
それは、木々の生長をサポートしている「守護精霊」が存在していて、それらの霊が祟るのだと、考えるのである。
この守護精霊とは、人間でもなければ木でもなく、いわば、物質界と神界の中間に位置しているエネルギー的存在だと言う。
わかりやすく言えば、キリスト教に登場する天使的な存在のようだ。
また、「白雪姫」に登場する「7人のこびと」(ドワーフ)たちは、この精霊の化身である。
「天使が祟るのか?」と思うかもしれない。
しかし木を守護する天使は、あくまで木にとっての天使であればいいのだ。
人間が木に何か攻撃を仕掛ければ、それを祟りによって阻止するのが、木の守護精霊の役割ということになる。
こうした守護精霊は、樹木の他にも、岩や鉱物、その他植物などすべての生命圏に存在していると、アニミズムのシャーマンたちは考えている。
従ってこんなアドバイスをくれている。
「森や海など自然の中に入り込むときには、必ず自然精霊に敬意を払い、行動すること。それを守らなければ、祟られて体調を崩したり、怪我や事故に遭わされる」と。

自然霊の祟りによる霊障

自然霊や精霊たちは、どのような場合に祟るのであろうか。
多くの場合、「特に聖域となっている場所を守護するために祟りとして攻撃をする」とシャーマンたちは考えている。
この場合の聖域とは、人間が考えた領域ではなく、自然界と精霊が指定した場所のことである。
従ってどこが聖域なのか、人間にはわからない。
そのため、聖域だとは知らずに入り込み、木を伐採したり、乱獲したりすると、祟られるというわけである。
また、人間が自分たちのエゴのために、自然界の存在を必要以上に破壊する行為も、調和を重んじる自然霊たちの攻撃対象であるという。
つまり、少々のことでは祟りなどは無いのであり、「聖域侵害阻止」と「バランスの乱れの阻止」が、木霊を始めとする精霊たちのミッションなのだろう。
こうした木霊や精霊の祟りに遭うと、心身に様々な異変が起こるとシャーマンは言う。
しかし、どんな症状を与えられるかは、ケースバイケースであるそうだ。

祟りを名目にした霊感商法に注意

以下に挙げるのは、某宗教団体が信者に発信している「木霊の祟り症状」である。
■木霊の祟りの症状
腰痛
脳卒中・脳溢血・脳梗塞など
関節炎
リューマチ
婦人病のほとんど
血管が破裂したり断ち切られる病気
脊椎の損傷
手足の節くれ
この宗教団体では、上記症状が現われたら、「木霊の祟り」であり、しかるべき料金にてお祓いをしてくれるそうである。
自然環境と離れた都会で、普通に暮らしていたとすれば、おそらく木霊の怒りを買うことはまず無いはずである。
ただし、自然の中にハイキングに行くのが趣味などの人は、木霊の怒りを買う機会が多くなるため、注意は必要であろう。
それにしても、上記のように「症状が出たらそれは木霊の祟り」では、あまりに自然霊に対して失礼である。
自然霊は悪者ではないことに注意していただきたい。
こうした名目で高額料金を取るのは、霊感商法であるため、気をつけていただきたい。

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