虫の知らせとは、人間に生来備わったテレパシックな情報感知・予知能力のこと。親子、親類縁者、結婚相手や恋人、友人知人など、比較的親交の深い人間関係において特に、意識間においてある種の情報交換が行われやすいとされている。類義語に「以心伝心」がある。
人に何かを知らせる「虫」とは、「道教」において定義される「三虫」(さんちゅう)より転じたものである。「三虫」(=三尸・さんし)とは、生まれながらにして人体内にいる三匹の虫で、その役目は「人が寝ている間に人体から抜け出し、その人の罪悪を天帝に密告する」等とされている。道教が伝来して以降、日本でも「虫の知らせ」の他、「虫が良い」、「腹の虫」など、この「三虫」を基にした言葉が生まれている。「虫の知らせ」の場合は、体内に棲んでいる虫が「何かしらの情報を知らせてくれる」と考えたわけである。
しかし実際には、体内にそういう「虫」がいるわけではない。では、「虫」の本質は何であろうか? これはあくまでも一つの仮説であるが、あなたの心に囁く(知らせる)ものといえば、その本質の候補の筆頭は「直感」ということになるであろう。虫の知らせは、老若男女多くの人が体験しているが、そのほぼすべての人が「直感的に何かしらの情報を感知している」と言える。直感は人間誰にでも備わっている。だからこそ、「虫の知らせ」は誰にでも起こるものであり、また、実際に多くの人が体験をしているのである。そこで本稿においては、「虫の本質」とは「直感である」として、さらに以下の情報を提供していきたいと思う。
「虫の知らせ」にはさまざまなパターンがあるが、下記に主な3つのパターンを記す。おそらく読者も類似の体験があるであろう。
1)ある人がふと気になった時に、何かしらのリアクションが起こる(虫の知らせとシンクロニシティ:共時性の関係)
「そういえば、あの人どうしているかな?」などと、ある人のことがふと気になるといった事がある。そう思った瞬間、まさにその気になった人から電話が来たり、メールで知らせが着たり、あるいは街角でその人とばったりと出会ったりする。こうしたことが人生には、まま起こるものである。この出来事のうち、「虫の知らせ」の部分は、「あの人はどうしているかな?」とふと気になった、という現象である。これは「虫」が「あの人のことを気にしなさい」とあなたに囁いたのである。もちろん実際には「虫」ではなく、あなたの直感が囁いたわけである。そして、その直後に、その気になった人からのリアクションが起こる現象は、心理学者のユングが「シンクロニシティ(共時性)」と名付けた「意味のある偶然の一致」という現象である。あなたとその気になった人は、偶然のように見える中である種の「時間の共有」(共時性)によって引き合わされ、その結果としてお互いの人生に何かしらの意味のある出来事を共有する、ということになる。このように「虫の知らせ」には、往々にして「シンクロニシティ」というサポーターが現れて、あなたに「虫の知らせ=直感情報」が正しいことを教えてくれるのである。
2)身内などの異変を察知する(以心伝心型の虫の知らせ)
親子、身内、パートナーなど、人間関係の中でも親密さの度合いが増すほど、当事者間ではテレパシックな情報交換が可能となる。その理由は、わかりやすい言葉で言えば「心が開き合っている」「心が通じ合っている」からである。「心が開く」状態とは、心のアンテナがその人に向いており、その人から発信される信号をキャッチしやすい状態にある、という状態であると換言できる。特に親子などは、長年に渡りお互いが無意識的に相手の心を受け入れ合う状態を作っている。だからたとえケンカなどをして少々疎遠になっていたとしても、親子のどちらかに何かしらの異変があったとき、片方が「あ、お母さんのことが気になる」などと、その異変を察知する事ができるのである。また、夫婦や恋人関係などにおいても、心が開き合えている状態の場合、どちらかが事故にあった際に、まったく遠くにいた片方が「体に衝撃を感じた」などといった事例も実際にあるのである。これらはすべて「以心伝心」による「虫の知らせ」である。
3)物品が媒体となって知らせる(物品媒体型の虫の知らせ)
これはよくドラマのワンシーンなどで見受けられるものである。例えば、ある人からのプレゼント品や譲り受けた物品が破損した際に、その人の異変をキャッチするといった類の事例である。こうした物品媒介型の虫の知らせは、ドラマなどでは「相手に不幸があった」ことを暗示させるものが多いが、実際において虫の知らせが教えてくれるのはなにも不幸ばかりではない。例えば、最近では疎遠となってしまっている人間関係を、再開させたほうが将来のためになる場合など、その人とのゆかりの物品などを見た際に思い出し、「連絡してみようかな」等と思いつくことも、じつは虫の知らせなのである。
虫の知らせが起こるメカニズムは、主に3つのステップで構成される。具体的なイメージが伝わりやすいように、ラジオを傍受する際の手際も併記しておこう。
1)虫の声を聞く(直感の囁きを聞く)
あなたの心に、ふと、「ある人が気になる」等の思いが湧き起こる。ラジオの傍受に例えるなら、ラジオの電源がオンになった状態である。
2)情報収集
その気になった人に関して、いろいろと思いを巡らせる。ラジオで例えるなら、聞きたいチャンネルに周波数帯を調整している状態である。
3)再び虫(直感)の声を聞く
その人の「心」へとしっかりとチューニングできた際、直感的に何かしらの情報が入り込んでくる。ラジオで例えれば、ラジオ局からの放送内容が受信できた状態である。
もちろん実際には、ラジオを聞くようにクリアーに相手の心の情報が入ってくるわけではない。もしこのように意のままに相手からの情報が入手できれば、その人は完璧なテレパシー能力者(テレパス)である。しかし、虫の知らせのメカニズムはまさに、このテレパシーのメカニズムと同じである。ただ、多くの人がテレパシーとは意識せず、虫の知らせを体験している。ただ、ほとんどの人がテレパスのように正確には情報をキャッチはできないため、その「感知」をサポートするものとして、上記に挙げた「シンクロニシティ」、「物品媒体」等が虫の知らせを手助けしているのである。
「虫の知らせ」とはわかりやすくいえば、人間に本来備わった「心のアンテナ」の存在を私たちに教えてくれるのである。こうした虫の知らせを「よく体験する」という人がいる。ではどういうタイプの人が虫の知らせをよく体験するかというと、「思いやりのある人」「愛情深い人」「直感力の鋭い人(直感を信頼している人)」などである。思いやるという行為は、相手に心を開く行為であり、思いを電波とするなら相手に対して「アンテナを向ける」という行為である。また、愛情も相手を思いやることが基本の行為である。これが親近者間で虫の知らせが起こりやすい理由である。つまり、人に対し「思いやりを持つこと」が、虫の知らせやテレパシー能力を開花させる上で重要な鍵となる。そして次に、こうした「思い=意識」での情報のやり取りは、すべて「直感」が伝えてくる。「直感」とは、ラジオで例えれば、あなたの心の中のひとつの「局・チャンネル」である。「直感チャンネル」は誰の心にもあるが、問題がひとつある。それは、とても音量の小さいチャンネルであるということである。ライバル局には、「エゴ」「欲望」「損得勘定」「感情」などさまざまなものがあり、それらのチャンネルはどれも音量が大きいのである。つまり、「直感」は他の心の情報よりチャンネルを合わせにくいものということである。従って、「直感」を有効活用するには少々、コツというのか、訓練も必要になるであろう。しかし、「思いやり」の心を育み「直感」を磨くことで、虫の知らせのみならず、テレパシー能力は多いに開花する。将来的に人間が高めるべき能力の一つであることは間違いないのである。