念写とは、カメラなどの撮影機材、写真、感光版、フィルム等に、思念・念力等によって、何かしらの像・文字・模様等を写しこませる現象である。
カメラ等の撮影機材を使う場合は、念じる際にシャッターを切る方法と、シャッターは切らずにカメラに向かって念を送るだけという方法がある。
日本における念写現象の発見は、1910年12月に、福来友吉博士(当時は東京帝国大学助教授)が、御船千鶴子・長尾郁子・三田光一らの超能力者たちの透視の実験・研究中に発見した現象、とされている。
下記に挙げるようなさまざまな念写実験が行われ、成功例、失敗例がともにあるが、科学的には認められないまま現在に至っている。
ポラロイドカメラが販売されるようになって以来、現像等の手間隙が省けることもあり、念写実験に頻繁に使用された。
一方でポラロイドカメラは、二重露光演出が可能であるため、マジシャンたちによって「念写マジック」の道具としても活用されている。
上記のように念写は多くの場合、カメラ等の撮影機材に感応させる現象だが、能力者によっては画用紙などの紙類や布等に、同じく思念によって絵や何かしらの模様、図形、肖像等を出現させたりする場合もあり、これらも念写と呼ばれる。
●三田光一の「空海像」公開念写実験(1930年)
三田 光一(1885年 - 1943年)は、福来友吉博士によって発掘された「超能力者」の一人で念写能力があるとされた人物で、「月の裏側の念写」(後述)でも知られている。
1930年3月16日、京都・嵯峨公会堂において約400名の観衆の前で、三田光一の「念写実験」は行われた。
この実験は、12枚用意された写真乾板(フィルム)の「6枚目に大覚寺の心経殿を写す」という実験だった。
しかし実験前に三田は「空海のご縁で開催された念写実験なので、空海様が写る気がする」と主催者に語ったそうである。
そして実験が行われると、三田はほんの15秒で念写を終え、早速、現像作業が開始された。
その結果は意外なものだった。
目的の6枚目には何も写らず、7枚目が黒く写っていたのである。
こうして「6枚目に大覚寺の心経殿を写す」という当初の実験目的は失敗に終わった。
それでも、「空海様が写る気がする」という三田の観は間違いではなかったようだ。
観客の中にいた写真家、浜豊彦氏が現れ「7枚目の乾板は焼きすぎです。調整しましょう」と言うと乾板を調整したのである。
その調整の結果、「空海」と思しき僧の像がくっきりと姿を現したのである。
肝心の大覚寺の心経殿の念写には失敗したが、空海像が姿を現したことを、集まった観客たちは畏敬の念を持って口々に弘法大師・空海の真言を唱え始めたそうである。
ちなみに、この空海像は「西暦822年、空海49歳の姿」とされている。
●三田光一の「月の裏側」念写実験(1931年)
空海像を念写したことで三田の念写能力は話題になった。
一方で否定派は「トリック説」を疑わなかった。
そこで福来友吉博士はまず、念写に使う写真乾板(フィルム)をエックス線を通さない鉄の箱の中に入れた。
さらに、念写ターゲットをインチキができないように、当時は人類にとって未知なるものであった「月の裏側」としたのである。
その結果、とある惑星と思しき物体の表面がしっかりと写りこんだのである。
しかし当然のことながら、それが月の裏側と証明できることは不可能であり、結局は批判を買う結果となった。
近年においては、NASA発表による月の裏側の月面クレーターの位置と三田の念写写真の比較で、「18以上のクレーター位置が一致している」ことが確認されている。
一方で、全体の形や細部において、実在性が疑われる数々の形状等も指摘されている。
●清田益章の東京タワー念写
スプーン曲げ能力で有名になった清田 益章(1962年- )は、テレビ番組企画の中で、「東京タワーに類似した像」を念写させることに成功している。
この際に使われたのは、フィルムの入ったポラロイドカメラに向かって念を送るという方法で、シャッターを切ることは無かった。
最初は1時間程度の時間をかけて、光を映しこませた。
次に、やはり1時間程度の集中をして、「東京タワーに似た像」を写しこませたのである。
●念写の実在性
もし三田光一の「月の裏側」「空海」や清田益章の「東京タワー」が、現物とまったく同じものであったり、モデル的なものが存在しているとすれば、念写の実在性は薄らいでしまっていたであろう。
現物そのものやモデルがあるなら、どうしてもトリックと考えられてしまうのである。
しかし、実物とは明らかに違う、という点において念写は実在性を帯びる。
例えば、清田の念写を実際の東京タワーと同じアングルで撮影し検証してみると、念写像は幅などにおいてサイズが異なっており、実際の東京タワーが撮影されたのではないことは明らかだった。
また、三田光一の念写した空海像も、そのモデルとなったと考えられる肖像画などが存在していないのである。
これらのことが逆に、トランプなど実物をタネとして仕込むマジックとは違う、「念写」であることの証明になるのである。
●念写マジック
念写マジックではポラロイド社製の「外国シャオ(Xiao)」もしくは「シャオ(Xiao)」という製品が、多重露出演出がしやすいために使われることが多い。
念写マジックでは多くの場合、トランプなどが写りこむことになるが、これはあらかじめそのトランプの画像をOHPシートなどを使って仕込むトリックである。