厄除けとは、災厄から逃れ平穏無事に日々を過ごせるようと願って行う儀式のことを指す。地域や宗派によっては「厄祓い」、「厄払い」、「厄落とし」などと称される場合もあるが、その目的は同じである。手法も概ね変わらない。また、同様の効能をもつ物品についても厄除けと呼ばれる。
主に厄年にあたる年に合わせて厄除けは行われる。中国由来の陰陽道から発祥したこの厄年という概念は、わが国においても、平安時代のころにはすでに確立されていたという。これに該当する年齢では災厄が降りかかりやすいとされる。本人に直接悪影響が及ぶ場合もあれば、本人以外の身近な人々がなんらかの災難に見舞われるケースもある。これを避けるべく、厄年に厄除けする習慣が根づいているわけである。
しかしながら厄は、毎日の生活のなかでもじわじわと蓄積していく性質のものである。そのため、不幸が続いたり運気が良くないときなどには、厄年以外であっても厄除けを受けることが推奨される。
最も一般的な厄除けの方法は、神社仏閣へ詣でて祈祷してもらうことである。
関東地方では西新井大師・川崎大師・佐野厄除け大師の三大師や成田山新勝寺、関西地方ならば石清水八幡宮や門戸厄神などが厄除けに強いことで知られている。しかし、こうした有名な神社仏閣でなければ効果が期待できないのかというと、それは必ずしも正しくない。
真に最善なのは、身近な神社仏閣に頼むことである。都合のよいときだけ願い事をしておいて、その後は一切気にも留めないというのは、神仏に対するマナー違反になる。常日頃から信仰していてこその神頼みである。良識的には、有名な神社仏閣を検討するのは、特定の寺社に思い入れがない場合だけに限定すべきだろう。
気になるのは厄除けにかかる費用である。初穂料/玉串料/御布施など寺社によって名称こそ異なるが、いずれも相場は5000円以上と設定されている場合が多い。ただし、これはあくまでも相場であるため、最低額が10000円以上という神社も中にはあるので注意されたい。近年は明朗会計の神社仏閣が増えているので、事前によく調査してから依頼するとよい。もっとも、これは信仰心の問題であるので、多く納めたければいくら納めても問題はない。また、金額によって厄除けの効果が違うということもないとされている。
ほかには、祈祷師や霊媒師といったお祓いの専門家に依頼するという選択肢もある。費用は割高となるが、信頼できる専門家がある場合はこれもよいだろう。
だが、この仕事をするために特別な資格は必要とされないため、悪徳業者が一部まざっている可能性は否定できない。専門家選びには、情報を精査したうえでの冷静な判断力が求められる。素性のわからない専門家に頼むよりは神社仏閣を頼るほうが賢明といえるのではないだろうか。
よりシンプルな手段としては、護符やアクセサリーなどに代表される厄除けグッズを用いる方法がある。前述の方法が、どちらかというと災厄に見舞われた際の対症療法的であるのに対して、こちらは未然に予防するための方法だといえよう。
厄除けグッズは、財布やパスケースに入れるなどして日ごろから身につけておくことで、災厄を体に近づける可能性自体を減らしてしまう優れものだ。厄年以外の厄除けにはこちらのほうが適した方法といえる。
種類によっては、開運や金運アップといった副次的な効果を期待できるものもある。手軽に購入できる価格帯のものも少なくないため、厄年の人への贈答品としても需要が大きい。長いものや鱗模様のあしらわれたもの、七色に彩られたものには、特に高い厄除け効果があるとされる。男性向けの品としてはネクタイやベルト、女性向けではスカーフやマフラーが人気だ。また、パワーストーンのあしらわれたブレスレットやネックレスも一定の厄除け効果があるとされ、よく見かける。
厄除けや厄年に科学的根拠はない。だが、何百年もの長いあいだずっと習慣として根づいているのは、それなりに理に適っている部分があるからにほかならない。単なる迷信で片付けてしまうのは乱暴である。
厄年にあたる年は、生活に大きな変化が訪れたり環境が変わったりしがちな節目に設定されている。こういった時期には慣れない緊張感から体調を崩したり、注意力不足から思わぬ怪我をしたりすることが多い。
厄除けという習慣は、いわば、時に立ち止まり神仏のまえで自省し、謙虚さや慎重さを忘れずに生きろと忠告してくれる、生活の知恵のようなものなのかもしれない。