空前のトマトブームが巻き起こっている。
スーパーマーケットからはまたたく間にトマトが消え失せ、コンビニエンスストアにおいてもトマトジュースや水煮の缶詰など、関連商品は品薄の状態がつづいている。
そして、新たに入荷されてもすぐに売り切れてしまうのが現状だ。
トマトといえば、古くより好き嫌いのはっきりと分かれる野菜であった。とくに乳幼児からすれば、ピーマンやニンジンなどと並んで「苦手な野菜」の代表的な存在だったといえるだろう。大人になっても克服できていないままだという人も多いはずだ。
そんなトマトが、突然大人気商品となっているというのだから、驚きである。
原因は、2012年2月の京都大学の発表だった。
農学研究科の河田照雄教授らのグループが、日本デルモンテ株式会社や千葉県農林総合研究センターとの共同研究において、トマトにダイエット効果があることを発表したのである。
2月10日にこのことがあきらかとなると、マスメディアはすぐに大きく報道した。結果、12日にはすでに入手のむずかしい状態となっていた。
健康によいとされる食品が突然品薄になるという現象は、これまでにも数々のケースがあった。ココアや納豆やヨーグルトなどの大流行は記憶に新しいのではないだろうか。
ダイエットは今や、若い女性だけでなく、老若男女誰にとっても大きな関心を寄せられる事柄になっている。また、ここ10年ほどのあいだに、世間には健康志向も根付いた。少しでも健康になりたいと考える人々が、すぐに飛びつくのも無理はない。
まして、今回の研究は京都大学によるものなのである。
日本には750を越える数の大学が存在しているが、そのなかでも東京大学と並んでトップに位置する京都大学の発表となれば、その信頼度も当然高くなる。
従来、納豆やヨーグルトなどの流行の際には関心を示さなかった層も、今回ばかりは食指を動かしているのかもしれない。
ところで、健康とスピリチュアルは切っても切れない関係にあるものである。
スピリチュアルは心の健康を志向するものであり、その先には肉体の健康とも直結するからだ。
今回は、現在のトマト・ダイエットのブームに関して、スピリチュアルの視点からそのメリット・デメリットに迫ってみたい。
トマト栽培の歴史と特徴
はじめに、トマトという野菜がどういった食品であるのか、あらためて確認しておこう。
トマトはナス科ナス属の植物であり、南アメリカのアンデス山脈を原産とする。
寒い冬のある日本では一年生植物だと考えられがちだが、実は熱帯地方などでは多年生である。
16世紀初頭にはヨーロッパに持ち込まれていたとされるが、このときはあくまでも観葉植物としての輸入だった。これは、トマトがベラドンナとよく似ていたためで、当初は有毒だと考えられていたのである。
しかし、貧困層の人々は、どうにか食用にはできないものかと研究を重ねた。その結果、18世紀には現在の形となり、広く食べられるようになったという。
日本に伝わったのは江戸時代、寛文年間のことだった。ただし、当初は日本人の味覚とはあまり合わなかったようだ。その後日本人向けの品種が開発され、本格的に食用として栽培されるようになったのは昭和時代に入ってからである。
現在では8000を超える品種が存在しており、世界で最も消費量の多い野菜となっている。
品種が多いということは、それだけ味の特徴にもバリエーションがあるということだ。そのため、イタリア料理におけるパスタソースやメキシコ料理におけるサルサなど、国境を越え多くの国でトマトを使う料理が発展した。
サラダなどのような生食からトマトケチャップなどのような加工食品まで、用途も幅広い。
また、鮮やかな赤い色は料理の彩りとしても有用で、これも世界中で消費されてきた理由のひとつだろう。
健康食品としてのトマト
今回の京都大学の発表がなされる以前より、トマトは健康によい食品だと考えられてきた。
まず、ほかの野菜類と同じように、ビタミンCが豊富に含まれているという点が挙げられる。ビタミンCは風邪の予防などにも効果があり、感染症のリスクも下げる。また、鉄分やミネラルといったほかの栄養素の吸収を促進する効果もある。
サプリメントとして最も多くの人に摂られているのがビタミンCであることからもあきらかなように、健康保持には大きな効能がある。
そしてリコピンも多く含まれているが、こちらにはガンの予防に効果があるのではないかという説がある。まだデータの蓄積が充分ではないため、科学的な立証はなされていない段階であるが、肯定派からも否定派からも多くの研究が重ねられてきている。
さらにビタミンAの形態も理想的なもので、トマト食品を多く食べている人は前立腺ガンの発症率が低いという調査結果がある。
これらのことから、トマトの成分をより効果的に摂取すべく、健康志向の強い人々からはトマトジュースが愛飲されてきた。1920年代より世界中で、日本においても1970年代以降多くの食品メーカーからトマトジュースが発売されている。
ただし、トマト独特の酸味が生のトマト以上に強調されている商品も多く、トマトが苦手な人にとっては飲みやすいものだとはいえなかった。
そのため、健康によいという認識こそ広く知れわたっているものの、大流行とまではいかないのが従来のトマトジュースであった。
ところが、ダイエットとなると話は別である。
従来の健康効果と異なり、ダイエットは目に見えて結果がわかるものであり、また、痩せたいと考えている人はかぎりなく多いからだ。
今回ダイエットに効果があるとされたのは、トマトに含まれる「13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸」(13-oxo-ODA)と呼ばれる成分だった。この13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸には、血中の脂肪増加を抑制する作用があるのだという。つまり、単純なダイエット効果だけでなく、肥満性糖尿病の予防にもなる。
13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸は、毎食2つのトマトかコップ一杯のトマトジュースを飲むように心がけることで、適量を摂取することができるのだとされる。
トマトもトマトジュースも品薄状態になってしまった背景には、こうした研究内容があったのである。
トマト食はスピリチュアル的に「健康」だろうか
しかし、スピリチュアルの観点からみると、必ずしもトマトを食べるべきだとは言い切れない側面もある。
スピリチュアルでいう「健康」とは、心身両面にとって、最も気持ちのよい状態をキープすることである。無理や我慢をすることなく、あるがままの状態でいること。これなしでは、真の健康は達成しえない。
では、今回提唱されたようなトマト・ダイエットはどうだろうか。
よく知られるように、東洋医学ではトマトは「体を冷やす」食品だと考えられる。これは具体的にいうと、「腸を冷やす」ということだ。
人間の体内組織も、機械類と同様、活発にはたらくためには相応のエネルギーがなければならないのだが、これには熱が必要だ。体温を下げてしまっては、腸が活性化しないのである。
つまり、体を冷やすことは、体にとって本当に気持ちのよい状態だとはいえない。
腸機能が衰えるということは、腸内細菌が減るという意味でもある。すると免疫力は低下してしまうし、脂肪も分解しづらくなる。また、排泄も思うようにはいかないので、むくみやすくもなるだろう。
そもそも体が冷えた時点で、本能的に人間は脂肪を蓄えようとするのだ。脂肪を体から排除しようという目的とは正反対になる。
ダイエットを成功させるために必要なのは、痩せた状態が気持ちのよい状態であるのだと心身に認識させることである。
ところがトマト・ダイエットでは、脂肪を蓄えることこそが最も気持ちよい状態になってしまう。
たしかに13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸という成分そのものはダイエットに効果があるのだろうが、トマトは13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸だけで構成されているわけではない。
体を温めてくれるようなほかの食品と併用しながらでなければ、期待したような効果は出ないかもしれない。
もっとも、だからといってトマト・ダイエットがまったくの無駄だといっているわけではない。
意識してトマトを多く食べるという行為は、「痩せよう」という強い意志を体に伝えることには間違いなくなるはずだ。
以前スピリチュアル・ダイエットについて取り上げた際に、この意志の力こそが最も重要なのだということは解説した。
心の底からトマト・ダイエットの効果を信じ抜き、たとえ体が冷えてもそれは悪いことではないのだと体に認識させることができるならば、一定の効果はあがるだろう。
心の声と体の声とよく相談しながら、ダイエットに取り組むようにしたい。