真霊論-よい睡眠のために(1)~睡眠を見直してよい暮らしを

よい睡眠のために(1)~睡眠を見直してよい暮らしを

「春眠暁を覚えず」という言葉がある。
この有名な言葉は、詩人・孟浩然の代表作『春暁』のなかの一節であるが、たしかに春の眠りは気持ちのよいものだ。ついついうたた寝をしたり、長く寝過ぎたりということも増えるかもしれない。
これから気候が穏やかになっていくにつれ、ますます睡眠も穏やかで心地よいものへとなっていくだろう。
もとより睡眠は、人間が生きていくために必要不可欠なものである。
食欲・性欲とならんで三大自然欲求のひとつだとされることも多いが、費やす時間で比較すれば睡眠欲は他のふたつを圧倒している。長い人生のうち、実に3分の1以上もの時間が睡眠に充てられるのだ。
そして、睡眠欲は自分の意志で我慢しようにも限度がある。若いころなどは、どれぐらい眠らないでいられるか挑戦したことのある読者もいるかもしれない。だが、いくら必死で耐えようとしても、外的な力で妨害されないかぎりは必ずいつか自然に眠りに落ちるはずだ。
これは、それだけわれわれの体が睡眠を欲しているということの証左でもある。
事実、断食の世界記録は30日間であるが、不眠の記録はわずか18日間となっている。
また、ラットを使用しての実験によれば、食事を絶たれた個体よりも睡眠を絶たれた個体のほうが早く死んでしまうという報告がある。
つまり、食事以上に生命維持に直結するのが睡眠なのである。
生きていくためには、嫌でも睡眠をとらなければならない。
だからこそ、どうせ同じく眠るのであれば、少しでも快適に寝たいものだ。
そしてそれこそが、よりよい人生へとつながるのである。
今回は、スピリチュアルの視点から「よい睡眠」について考えてみたい。
睡眠の目的と意味
人間が睡眠をとる目的やメカニズムは、まだ完全に科学的に解明されたとはいえないのが現状である。ただし、医学的・生理学的にはあきらかになっている部分も多い。
まずはなにより、心身を休息させることが睡眠の最大の目的である。
これは説明するまでもないだろう。誰しも、酷く疲れた日には帰宅と同時に眠ってしまうことや、その眠りがふだんよりも深いという経験をしたことがあるはずだ。
睡眠中は、成長ホルモンの分泌量が起きているあいだよりも増加する。そのため、新陳代謝が活発になったり、傷の治癒が早まったりするのである。この治癒能力は精神にも影響するため、ストレスも取り除かれる。
これに加えて近年有名になりつつあるのが、記憶を整理するためだという説である。
この説では、起きているあいだに脳に詰め込まれたさまざまな情報が、睡眠によって再構成され、体系的に記憶として保存されるのだとされる。
睡眠時の学習が効果的だといわれるのも、こうした記憶との密接な関係を根拠にしているとみられる。
また、この再構成の副作用として夢を見るのだともよくいわれている。
だから睡眠が不足していると、集中力も記憶力も著しく低下してしまうのである。
体内のさまざまなバランスも不安定になるため、肥満になりやすくなり、さらに、平均睡眠時間の短い人はうつ病になりやすいという統計も出ている。
いわば、睡眠は心身をリセットしてくれるものなのである。
この考えかたは、スピリチュアルにおいてもきわめて類似している。
一般にスピリチュアルでは、睡眠は死と再生のイメージをもって説明されることが多い。眠りについたあと再び目覚めるということは、新しい自分になるということである。
つまり、睡眠は最も原始的なスピリチュアル・ヒーリングなのである。
再生するための予備期間が充実していなければ、新しい自分も望ましいものにはならないはずだ。
世の中にはさまざまなヒーリング法が流行し蔓延しているが、そうしたものに手を染めるまえに、まず睡眠を見直すことのほうが効果的ではないだろうか。
科学的解釈とスピリチュアル的解釈とで一致点が多いということは、それだけ睡眠が神聖で神秘的な行為なのだということである。
これらのことを踏まえると、よい生活のためによい睡眠が必要だという意味もうなずけるのではないだろうか。双方はコインの裏表のようなものであり、相互に作用しているのだ。
起きているあいだの生活のクオリティと睡眠のクオリティは、はっきりと比例するのである。
睡眠の効果を無駄にしない
それでは、「よい睡眠」とはどういった意味なのだろうか。
これは反対に、「悪い睡眠」を考えてみればよい。
まずは、前項のとおり、極端に短い睡眠は悪い睡眠である。
これは体質によって個人差もあり、ごくまれに3時間程度でも充分という人もいるが、一般的には7時間前後が理想とされる。
しかし時間だけ長く眠ればよいというものでもない。
睡眠は生活のサイクルと密接に関係している。心身には疲れた分だけの休息が必要であるが、睡眠は貯めておくことができないからだ。そのサイクルが不安定だと体内時計も狂ってしまい、せっかくの睡眠の効果も弱まってしまうことになりかねない。
不規則な生活のなかでの睡眠は、残念ながら「悪い睡眠」といわざるをえないだろう。
また、睡眠はヒーリングであるから、その環境も重要だ。
精神も肉体も、我慢や無理を最も嫌うのである。リラックスできない環境では、いかなるヒーリングも効果は半減してしまうだろう。
狭い自動車のなかでの仮眠や机に突っ伏しての居眠りは、けっして効果的とはいえない。また、入浴しながらの睡眠は命にかかわることもあるので、注意が必要だ。
よい睡眠をとるためには、
(1)必要な長さで
(2)規則的なサイクルで
(3)心地よい環境で
寝るという3原則が求められるのである。
とはいえ、上記の3原則を実際に厳守して睡眠をとることのできる人は、少ないかもしれない。
たとえ頭でその重要さを理解していようとも、仕事の都合でどうしても短時間しか眠れない人もいるだろうし、生活サイクルが一定しない職種の人もいるだろう。狭い場所での仮眠を余儀なくされるケースもあるだろう。
それならば、せめて、できる範囲で睡眠を快適なものにしたい。
よい睡眠のために知っておきたいこと
人間の睡眠の平均的なサイクルが90分であることは、近年よく知られるようになってきた。このサイクルの終盤はレム睡眠(=浅い眠り)であり、このレム睡眠の終わりと同時に起きると、目覚めがよいというわけである。
よって、90分の倍数で起きるようにするとよい。
睡眠不足にならない範囲で考えれば、7時間半(90分×5)か9時間(90分×6)の睡眠が理想となるが、そんなに長く睡眠時間をとれないというのであれば、6時間(90分×4)か4時間半(90分×3)まで減らしてしまうほうが、中途半端に5時間とか7時間とか眠るよりも目覚めがよいはずだ。
また、睡眠を快適なものにするためには、眠りにつくまえの心がけも大事である。
睡眠は体を休ませるものであるから、体に負担をかけないようにすることが望まれる。就寝前に食事をとらないほうがよいとよく言われるが、内蔵を休ませるという意味ではまったくもって正しい見解である。
満腹状態のほうが眠くなりやすいというイメージがあるかもしれないが、生理学的にみれば、空腹のほうが深い眠りに入りやすいのである。
それから、体を温めすぎないというのも見落とされがちなポイントである。
人間は眠るとき、体から熱を放出しようとする。最初から体が温まっていると、熱の逃げ場がなくなってしまうのである。入浴は寝る直前ではなく、30分から1時間ほどまえにしておくとよいだろう(もちろん、湯冷めして風邪をひいては元も子もないので、ほどほどに)。
また、眠ることができなくとも、横になって目をつぶっているだけで疲れは多少とれるものである。「休め」と体にいいきかせることが重要なのだ。そうすることによって、体が休息モードに入り、少しでもよい睡眠になるはずだ。
睡眠の効果を極力無駄にしないよう努めることが大事である。
睡眠の効果をより引き出す
3原則のなかで最もコントロールしやすいのは、睡眠環境であろう。
たとえば枕や毛布など寝具の質にこだわるだけでもよい。
近年は巷でも睡眠の重要さが見直されており、科学的に研究された寝具のテレビショッピングなども目立つが、このブームは理に適っているといえる。
ただ、なにも高級ならばよいというものではない。睡眠のクオリティという観点からみれば、自分が本当にリラックスできる環境であるかどうかだけが問題なのだ。
よく乳幼児が、お気に入りの毛布がなければ眠れないということがある。たとえそこになんの科学的根拠もなくとも、それを用いることで心が落ち着くというのであれば、その事実だけで睡眠のクオリティはぐっと上昇するだろう。
もちろん、スピリチュアル・ヒーリングの代表的な手法であるアロマやパワーストーンなどに頼るのもよいだろう。風水を利用して快眠しやすいインテリア・コーディネイトをしたってよい。好きな音楽を流すだけでもよい。
この睡眠というシーンにだけ関していえば、実際にリラクゼーション効果があるかどうかは二の次なのである。
自分自身がリラックスでき、癒されると信じているのであれば、どのようなものをどれだけ置いても構わない。
結果的にそれで、睡眠という最上のヒーリングが期待できるのである。
人生に不可欠なものだからこそ、些細な部分にも気を配りたいものだ。